非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,病態が進行することが稀な単純性脂肪肝(NAFL)と肝硬変や肝細胞癌に進行することのある非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に分類され,NASH診断の重要性が唱えられてきました。しかし近年,NAFLDの予後はNAFL/NASHの診断よりも,肝線維化の進行程度が影響することが報告されています。そして,肝生検に代わる非侵襲的な肝線維化診断方法も発達しています。この点に関して,名古屋大学・伊藤隆徳先生にご教示を頂きたいと思います。
【質問者】
多田俊史 大垣市民病院消化器内科医長
【NASH・NAFLにかかわらず線維化が予後に関連するとされ,注意が必要】
近年,メタボリック症候群に伴う,非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)が増加し,最近の疫学調査ではわが国における男性の約40%,女性の20%がNAFLDであると報告されています。NAFLDは組織学的に肝硬変,肝癌に至る可能性のある非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)と比較的予後が良好である単純性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver:NAFL)に分類されます。かつてはNASHか,NAFLかを診断することが重要であり,その確定診断のために肝生検を行うべきだと考えられてきました。
しかし,いったん予後良好とされるNAFLと診断されても,その後NASHに移行するという報告が相次いだために,NASHとNAFLを厳密に区別することの重要性が薄くなってきています。それらの分類よりも予後に直結するのが,肝臓の肝硬変進行の度合い,つまり「肝線維化」です。近年NASH/NAFLにかかわらず線維化が予後に関連するとされ,肝細胞癌などの肝関連合併症発生のみならず,肝臓以外の他臓器癌の発生にも関わっていると報告されています。特に男性では大腸癌,女性では乳癌といった生活習慣病に関連するとされるがんのリスクが増加するため注意が必要です。
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