(青森県 W)
【ALP・γ-GTP,抗ミトコンドリア抗体,肝組織像などから診断できる。UDCAによる治療で長期予後も良好】
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は,自己免疫的機序により肝内の小型胆管が破壊され消失することによって胆汁の流れが不良となり,うっ滞した胆汁のため周囲の肝細胞が破壊され,徐々に肝線維化が進行して肝硬変・肝不全へと至りうる疾患です。
以前は原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis)と呼ばれていましたが,近年では診断および治療の進歩のため,肝硬変にまで進行した患者はごく一部となって,病名との乖離が無視できなくなってきたことから,2016年に現在の原発性胆汁性「胆管炎」という新たな病名に代わりました。2018年の疫学調査では国内患者総数は推定3万7000名,14年前と比較して約3倍に増加しており,プライマリケアでも遭遇する可能性のある疾患です。
病理組織学的には慢性非化膿性破壊性胆管炎(chronic non-suppurative destructive cholangitis:CNSDC)と称される門脈域の炎症および胆管の破壊像が特徴です。患者は初期のうちはあまり症状がなく,健康診断などたまたま行われた血液検査で指摘される肝機能検査異常が診断の端緒となりますが,よく聞いてみると皮膚の痒みを自覚している人が少なからずいます。
①胆管障害を反映したALPやγ-GTPの慢性的な上昇,②自己抗体である抗ミトコンドリア抗体が陽性,③CNSDCなど特徴的な肝組織像の存在。以上3項目のうち2項目以上あれば,PBCと診断できます。ウルソデオキシコール酸(ursodeoxycholic acid:UDCA)が第一選択薬であり,およそ70%の症例ではUDCAが奏効し,長期予後も良好です。
肝機能検査異常,ことにALP・γ-GTPが上昇している患者を診た場合,まず腹部超音波検査やCTを行い,胆石,悪性腫瘍に伴う肝内・外胆管拡張を除外することが基本です。胆管拡張がなければ,PBCを疑って抗ミトコンドリア抗体を検査してください(ELISAによるAMA-M2抗体測定が一般的です)。これが陽性であればPBCと診断できますので,UDCA 600mg/日による治療を開始しますが,できれば肝臓専門医へ紹介し,肝生検を行っておくことをお勧めします。
【回答者】
田中 篤 帝京大学医学部内科教授