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平成を振り返りながら考えた[特集:医療の近未来予想図]

No.4958 (2019年05月04日発行) P.48

仲野 徹 (大阪大学大学院医学系研究科病理学教授)

登録日: 2019-05-04

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  • 歴史が繰り返されるわけではない。しかし、未来を考える時、役に立つのはやはり過去の歴史だ。

    30年前、平成が始まった頃を振り返ってみよう。医学および生命科学の歴史において、とりわけ大きな文字で記されるのは、間違いなくヒトゲノム計画のスタートである。将来、医学は、紀元前・紀元後と同じように、プレゲノム時代とポストゲノム時代というように区分されるようになるかもしれない。その分水嶺が日本では平成時代にあたる。

    米欧日からなる共同チームは15年間での完成を目指した。しかし、責任者になったフランシス・コリンズが「消える運命にある事業を率いる」かのような気持ちになったと後に述懐したほど、当時の技術ではとても無理な注文だった。ところが、実際にはそれよりも短い期間で成し遂げられた。

    そこにはコンピューターサイエンスの劇的な進歩があった。共同チームが分子生物学的な手法をメインに解析を進めたのに対して、バイオベンチャーの雄、クレイグ・ベンターはスーパーコンピューターを駆使したショットガン法で敢然と立ち向かった。結果、ベンターの方法論に軍配が上がった。

    歴史的に見て、生命科学や医学は、化学や工学、統計学など、数多くの他分野の力を借りながら進展してきた。しかし、あくまでも主役は、生命科学や医学の研究そのものであった。しかし、平成と同時に開始されたゲノム研究の展開はすこし違っていたということだ。この現実は、いまや生命科学研究や医学研究は、他領域の急速な進歩に教えを請わなければならなくなってきつつあることを示しているように思えてならない。

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