(新潟県 F)
【アルコール性・非アルコール性いずれにしても診断確定には,肝生検による肝組織像の確認が必須】
現時点ではアルコール性肝障害の可能性も,完全に否定することはできないと思われます。
ご指摘の通り,AST>ALT,γ-GTP上昇,肝炎ウイルスマーカー陰性はアルコール性肝障害の特徴に挙げられる所見です。アルコール性肝障害の診断を確定できる単一の検査項目はないので,血液検査では他にIgAの上昇,MCVの増加,自己抗体陰性(特に抗ミトコンドリア抗体・抗核抗体),血清トランスフェリンの微少変異(carbohydrate- deficient transferrin:CDT)なども参考になります。病理組織像(肝生検)も必要な検査です1)。
脂肪肝の鑑別は必須と思われます。脂肪肝はアルコール性と非アルコール性(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)に分類されますので,ここではNAFLDについて述べます。
NAFLDの原因は過栄養(肥満,糖尿病,脂質異常症)が多いのですが,薬剤,低栄養状態,遺伝性疾患などが原因となることもあります。本症例はやせ型で,血液検査結果からも過栄養を示唆する所見に乏しいようですが,NAFLDを否定することはできません。NAFLDの確定診断は病理組織像(肝生検)によりますが,一般的には非侵襲的検査である超音波やCT所見から診断されています。
NAFLDの10~20%が非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)であるとされ,肝硬変や肝癌に進行する可能性があります。患者の予後のためにもNASHの否定は重要です。
ご指摘のように,不規則な生活スタイルから睡眠障害となり,肝機能障害をきたす症例もあります。また反対に,肝機能障害(慢性肝疾患)が不眠症の原因となる場合もあります。
本症例は無症状とのことですが,慢性肝疾患で皮膚瘙痒感が生じることがあります。原発性胆汁性胆管炎(primary biliary cholangitis:PBC,旧呼称は原発性胆汁性肝硬変:primary biliary cirrhosis)では,黄疸出現前から皮膚瘙痒感が認められ,米国で行われた調査では,約半数の患者が睡眠障害を訴えるという結果でした2)。
また,肝硬変がなくてもシャント形成から肝性脳症に至る例があり,睡眠障害の原因となりえます。肝性脳症はアンモニアだけではなく,γ-アミノ酪酸,ベンゾジアゼピンなどが原因となることが報告されています3)。
まずは他の医療機関からの処方の有無,市販薬(漢方薬や鎮痛薬)の使用,健康食品(サプリメントなど)の摂取状況などについて,詳細な問診が必要と思われます。血液検査では自己抗体(抗核抗体,抗平滑筋抗体,抗ミトコンドリア抗体),免疫グロブリンなども知っておきたい情報です。まだ画像診断は行っていないとのことですので,腹部超音波,CT,MRIも行います。
最終的な診断確定には,肝生検による肝組織像の確認が必須です。本症例は5年前から肝機能障害が認められ,しかも増悪していますので,肝臓専門医への紹介も検討されてはいかがでしょうか。
【文献】
1) 日本アルコール医学生物学研究会(JASBRA):アルコール性肝障害診断基準 2011年版. 2011.
[http://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/010/sankou.html]
2) Rishe E, et al:Acta Derm Venereol. 2008;88(1): 34-7.
3) Ferenci P, et al:Hepatology. 2002;35(3):716-21.
【回答者】
井上貴子 名古屋市立大学病院中央臨床検査部副部長・講師