精神保健指定医の指定申請時に自ら担当として診断・治療に十分な関わりを持っていない症例をケースレポートとして提出したとして、厚生労働省から指定医の取消処分を受けた田沼龍太郎医師が、処分を不当として取消を請求した訴訟の判決で、東京地方裁判所(古田孝夫裁判長)は15日、国の処分を違法として処分の取消を命じた。厚労省の社会・援護局障害保健福祉部精神障害保健課は、今後の対応について「関係省庁と調整中。控訴期限(判決の2週間後)までには対応を決めたい」と話している。
田沼氏は、2016年10月に指定医を取り消された89人のうちの1人。この89人は、聖マリアンナ医大病院における指定申請を巡る不正事案を契機に実施された全国調査を通じて、不正があったと認定された。田沼氏を含む89人は医師法に基づく行政処分も受けている。
原告訴訟代理人の宮澤茉未弁護士らによると、指定医取消処分の撤回を求める訴訟は全国で10件以上起こっているが、医師側が勝訴したのは初めて。診療中のメモや証人の陳述に基づき、田沼氏が病棟のチーム診療体制の中で、他の医師を指導する立場で診療に関与していた事実を立証できたことが勝訴につながったとみられるという。
裁判で国側は、診療への関与の有無は原則として診療録の記載内容から判断すべきだと主張した。しかし判決では、診療録に氏名の記載のない医師が診療に関与していないとは「直ちに認められない」とした。また、田沼氏が指定申請を行った当時、診療録に自らの氏名や自ら行った診療行為の記載がない症例をケースレポートとして提出してはならないというルールが定められていなかったことも指摘した。その上で、診断・治療への関与を認定するに当たっての基礎資料を診療録のみに限定すべきであるとは言えないとした。