本年5月5日の「こどもの日」にあわせて、総務省は子供の人口に関する統計データを発表しました。2019年4月1日時点の日本における15歳未満の人口は、前年より18万人少ない1533万人で、人口の12.1%でした。子供の人口は1982年から38年連続で減少しており、さらには統計記録のある1950年以降で過去最低の数値でした。人口に占める15歳未満の子供の割合は、人口が4000万人以上の諸国の中で最低です。したがって、わが国では子供の命を守る取り組みが必要です。子供の安全を守るために、いかに防ぎ得る死(preventable death)を予防するかがカギとなります。
人口動態統計によると、0歳児の死因の第4位、1~4歳児の死因の第2位が「不慮の事故」です。この不慮の事故の中に防ぎ得る死が多く含まれます。約10年前に東京都内で小児の外因死を検討した報告では、不慮の事故死の原因として窒息が最も多く、ほとんどが自宅で就寝中に起こっていました。
私たちは滋賀県内で発生した小児の不慮の事故死剖検例を調査しました。その結果、不慮の事故死のうち約7割が窒息死でした。この大半は同様に就寝中に生じていました。さらに就寝時の環境を調査したところ、母親による添い寝、うつぶせ寝、顔面の上に布団がかぶさっていたなどでした。これらの例は、就寝時の環境を改善することで予防できます。すなわち、防ぎ得る死であることが分かりました。
母親による添い寝や添い寝をしながらの授乳は、窒息の危険があります。このことは諸外国で広く啓発されています。もちろん、母子のスキンシップを深めるうえで重要ですが、それを上回る危険があります。また、毛布や枕などの柔らかいものがベッド上にあると、それが児と密接して窒息する危険があります。
American Academy of Pediatricsは、児のベッド上には、上記の柔らかいものを置くべきでないこと、うつ伏せに寝かさないこと、添い寝をしないこと、といった乳幼児の就寝環境に関する警告をしています。このような予防対策はわが国でも早急に徹底されるべきです。保護者に対する積極的な指導が必要ですが、まずは指導者を指導しなければならないでしょう。
私たちは、小児の剖検例を詳細に分析することで、防ぎ得る死の実態が分かり、今後の課題を明らかにできました。以前にお話ししましたが、すべての死亡例が剖検されているわけではなく、残念ながら十分な検討がされないまま死因が決められている例もあります。
滋賀県では死因究明等推進協議会が中心となり、質の高い死因究明制度の運用に努めています。子供の外因死や不詳の死に対しては積極的に剖検を行って原因究明に努めています。滋賀県は本州の中で最も子どもの割合が多い県です。小児の防ぎ得る死を予防するためには、剖検例だけでなく、県内で生じたすべての子供の死を検証する必要があると考えました。そこで、昨年度から死因究明等推進協議会によって、近年における子供の死に関する全ての死亡診断書(死体検案書)が調査されています。小児の防ぎ得る死の実態を明らかにしたうえで関連団体と情報を共有する予定です。
有効な予防対策を考え、広く啓発することで防ぎ得る死がゼロになる日が来ると思います。