慢性的なうつ状態があり、突発的に出勤できない日があるとのことで受診した30歳代女性に、ガイドラインに沿って選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRIのデュロキセチン)を投薬した。同時に中途覚醒に対して睡眠深度をあげるためにトラゾドンも併用した。症状の改善効果が不十分だったため、非定型抗精神病薬の一つであるクエチアピンを抗うつ作用の増強を狙ってごく少量(25mg)のみ追加した。順調にうつ状態も改善し、安定して勤務ができるようになった。ごく一般的な回復経過である。
再発予防のために同様の治療を継続していた半年後、移動性の胸痛と息苦しさがあるとのこと。日常生活には影響がないとのことで、心電図、SpO2濃度に異常がなかったので経過観察とした。1カ月後に再診した彼女が一枚の写真を見せてくれた。左手が青くなりしびれたので基幹病院の救急外来を受診して、左鎖骨下静脈血栓症と診断されたと伝えられた。その病院から情報提供依頼があり治療経過を伝えた。その返書で、上記診断に加え多発性の肺梗塞と肺臓炎があることが指摘され、クエチアピンの内服を中止したとの内容であった。
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