私は眼科医で眼科疾患の診療を行っていますが、その中でも“緑内障”という疾患を専門にしています。緑内障というと眼圧が上がる病気として知られていると思いますが、眼圧上昇と緑内障の関連が明確になったのは1850年代の頃からです。これは、眼圧上昇により失明した眼を検眼鏡で観察すると、視神経乳頭の陥凹が拡大しており、組織学的に検索すると陥凹が拡大した視神経乳頭では広範に視神経線維の障害、消失がみられたことによります。いまや緑内障は、眼科疾患の中でも最も恐ろしい病気(?)の1つとして、眼圧上昇=失明という図式が都市伝説のように広まっているようにも思います。
ところで、緑内障は本当に眼圧が高くないと発症しないのでしょうか。ここで問題は、“正常の眼圧とは?”ということですが、多数の正常眼の眼圧分布をみると、それがほぼ正規分布するとみなされることから(実際には眼圧が高い方へ少し歪んでいる)、現在では、平均値+2標準偏差までの眼圧(21ないし22mmHgくらい)が正常眼圧の上限と規定されています。臨床的にも、眼圧が22mmHgを超える場合、緑内障の有病率が高くなるのでまずまず妥当なラインなのですが、実は眼圧が結構高くても緑内障を示さない例(高眼圧症)もあります。さらにやっかいなのは、特に日本人では、眼圧が21mmHg未満の緑内障症例が圧倒的に多いという事実です。
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