わが国では高齢化に伴って、世帯主が65歳以上である単身世帯が増えつつあります。2020年には65歳以上が世帯主である2097万世帯のうち単身世帯は35.2%でしたが、2030年には2240万世帯のうち39.6%、2040年には2412万世帯のうち43.2%に増加すると推計されています。
高齢になると肉体的に一人暮らしを続けることが困難になることもあります。また、認知症に罹患すると、ひとりで生活することが困難になります。このような場合、家族に施設への入居を勧められることがあるようですが、近年、最期までひとりで暮らすことを希望する高齢者が多いようです。
一人暮らしの高齢者が何らかの疾患に罹患し、また、日常生活の不自由などがあったとします。介護保険の申請をし、介護認定がされた後に様々なサービスを受けます。たとえば、通所リハビリテーションで筋力の低下を予防する、訪問ヘルパーさんにお願いして、重い食材(お米など)を買ってきてもらう、などです。通院が困難になったとしても医師による訪問診療が受けられ、ケアマネジャーさんが必要なサ-ビスをアレンジし、訪問看護や薬剤師による訪問服薬指導などを受けることができます。
病期が進行して末期の状態でも、多職種のスタッフが共同して看取りを行える体制を整えます。したがって、一人暮らしでも在宅看取りを受けることが可能です。
しかし、中には、自分ひとりで好きに生活したいということで、福祉の介入を拒む人もいます。福祉の介入がない場合には、自宅で急病を発症しても気づかれないことがあります。
あるとき、福祉の介入を拒否していた独居の高齢男性が死亡して発見されました。その後の検査で、死因は脳出血に起因した低体温症と判明しました。もし、誰かが倒れている男性に気づいて病院へ搬送されたならば低体温症で死亡することはなかったでしょう。一方で、病期が進行して末期の状態であったとします。福祉の介入があれば、たとえ死亡していたとしても訪問看護師やヘルパーなどに間もなく発見され、死が予期できていた状態であれば、医師による死亡診断が行われます。したがって、安らかに自宅で最期を迎えられます。しかし、福祉の介入がない場合には、死亡していてもしばらくは発見されません。これが孤独死と呼ばれる状態です。
孤独死の発見者で最も多いのは、家屋の管理者です。孤独死が発生すると、入居者の家財道具などを処分する費用がかかります。仮に、賃貸住宅の場合、死後変化に付随して発見場所が汚染された場合には、原状回復費用が発生します。現在、複数の保険会社では、これらの孤独死で生じた損害に対する費用を保険金支払い対象とする、「孤独死保険」が販売されているそうです。
最期までひとりで暮らすことを望むという本人の意思決定は尊重されなければなりません。しかし、孤独死となった際には警察の検視対象となり、死因究明や身元確認作業が必要になります。万一の時に起こりうることを理解して頂き、定期的な連絡相手を確保する、自らの代弁者を確保するなど、どこかとつながって頂きたいと思います。