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死因究明等推進基本法の成立と今後の課題[提言]

No.4981 (2019年10月12日発行) P.62

石原憲治 (千葉大学大学院医学研究院法医学/京都府立医科大学法医学特任教授)

登録日: 2019-10-09

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  • 1 成立までの経過

    2019年6月6日,衆議院本会議において,死因究明等推進基本法が可決・成立した。筆者は,細川律夫元衆議院議員の政策担当秘書として,数年来,死因究明等の課題に取り組んできた。2012年関連2法策定に民主党スタッフの一員として参画し,その経緯から,この度の法案についても検討の経過に立ち会った。本稿は,法医学史や制度論の研究者の立場で執筆した。

    十数年前から,わが国の死因究明制度は他国に比べかなり遅れを取っており,そのために犯罪や事故の見逃しが起きているとの指摘がされていた。こうした議論をふまえて,2012年に,理念法ともいえる死因究明等推進法(正式名称:「死因究明等の推進に関する法律」平成二十四年法律第三十三号,以下「推進法」),実施法である死因・身元調査法(正式名称:「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律」平成二十四年法律第三十四号,以下「調査法」)の2法が成立した。しかし,その結果,死因究明制度改革が,順調に進められたかというと疑問点が多数見出される。

    調査法によって,犯罪の疑いの低い死体についても解剖ができる新しい制度が創設されたものの,多くは司法解剖(刑事訴訟法に基づく犯罪が疑われる死体の解剖)や行政解剖(死体解剖保存法に基づく主に公衆衛生目的の解剖)がそれに代替された場合も多く,法医解剖の解剖率そのものは伸びることはなかった(過去10年,死亡者数に対する法医解剖率はずっと1.6%)。調査法に基づく解剖の実施の60%以上が東京,神奈川など従来から解剖率の高い4都県に占められるなど,解剖率の地方間格差はさらに広がる結果となった1)。また,推進法に基づいて2014年6月,死因究明等推進計画(以下「推進計画」)が閣議決定されたが,新しい事業はほとんどなく,新規の立法も予算の大幅な増額も見送られたため,関係者の誰もが失望せざるをえないものだった。2年間で推進計画に結びつけるとの主旨で時限立法とされた推進法は成果の乏しいまま,同年9月で失効することになる。

    そこで,自民・公明の与党は,推進法の後継法として「死因究明等推進基本法案」を提案した。しかし,推進法成立の際与党だった民主党は,基本法案に対し反対の理由はないものの,関係議員の引退等もあり積極的に成立に向け動くことはなかった。その後も基本法案は成立には至らず,理念法が欠如した状態が続いた。

    2019年の通常国会では,早期から各党会派の代表者を集め法案の成立に向けた議論と修正箇所の提案を受けるという与党側の慎重な対応に加え,理念法が必要不可欠であるとの事情への理解も深まり,野党からの修文の提案を容れた法案について,全党・全会派の賛同を取りつけることができた。そして,2019年5月30日には,参議院の厚生労働委員長提案を委員会において全員一致で了承し,翌31日参議院本会議で総員の賛成で可決され,6月5日に衆議院厚生労働委員会で可決,翌6日に衆議院本会議で可決され成立したものである。

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