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乳癌術後再発への化学療法の効果減弱にどう対処するか?

No.4985 (2019年11月09日発行) P.59

山本 豊 (熊本大学大学院生命科学研究部 乳腺・内分泌外科学講座准教授)

登録日: 2019-11-09

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71歳,女性。既往歴として,1998年くも膜下出血で手術,2009年他院にて乳癌で左乳房切断術〔腺癌,T2N0M0,StageⅢ,ホルモン受容体陰性,ヒト上皮増殖因子受容体2型(human epidermal growth factor receptor type2:HER2)陽性〕。
現病歴:2018年夏頃から左前胸部皮膚に腫瘤が出現し,悪臭を有する滲出液ありとのことで9月21日来院。来院時,左頸部リンパ節腫脹と前胸部中央から左側の皮膚に7×8cm大の潰瘍を有する腫瘤があり,胸部CTでは左胸壁に巨大な腫瘍を認めました(肝転移なし)。右頸部リンパ節を生検し,低分化型腺癌HER2(3+)陽性との組織所見を得ました。
9月25日入院,血液検査結果は,TP 6.8g/dL,Alb 4.2g/dL,AST 18U/L,ALT 13U/L,LDH 215U/L,ALP 593U/L,γ-GTP 25U/L,BUN 20.3 mg/dL,Cr 0.68mg/dL,BS 124mg/dL。10月1日よりHER2陽性乳癌再発として化学療法を開始。レジメンはトラスツズマブとパクリタキセルの併用で3週連続投与・1週休薬を1クールとしました。トラスツズマブは初回のみ168mgで2回目からは84mgとし,パクリタキセルは100mgとしました。7クール目の4月で左胸壁の腫瘤はかなり縮小し,腫瘍マーカーはCEA,CA15-3ともに低下し,効果ありと判定しました(11月5日)。
しかし,胸部CTでは左胸膜直下に腫瘍は残存しています。腫瘍マーカーも2019年3月までは順調に低下していましたが,4月には上昇に転じました(表1)。
(1)化学療法の効果が減弱したと考えるべきでしょうか。
(2)トラスツズマブ,パクリタキセルに代わる化学療法をどのようにすればよいでしょうか。
(秋田県 F)


【回答】

【トラスツズマブ・エムタンシンの使用が最も推奨される】

(1)化学療法効果の減弱化か?

再発乳癌における治療変更の基準は,がんに伴う症状の悪化や画像上明らかに再発巣の増大や増悪があった場合です。今回,化学療法によりいったん低下していた腫瘍マーカー(CEA)が再度上昇してきていますが,CTなどで明らかな増悪がなければ現在の治療を継続します。ご記載のように,一度低下した腫瘍マーカーが再上昇してきていますので,現在の治療の効果が以前よりなくなってきている可能性は十分あります。

しかし,治療法変更については腫瘍マーカーの再上昇のみでは判断しません。11月以降CTなどの画像検査をしていなければ,再度検査をして腫瘍の状態を評価されることをお勧めします。その上で治療法を変更するかどうかを判断されるとよいと思います。

ご記載のデータ上,気になる点があります。11月5日以降,貧血が進行しています。1月以降も貧血が進行しているようであれば,化学療法(パクリタキセル)の休薬および貧血に対する対応が必要と考えます。貧血があっても一般に抗HER2療法(トラスツズマブ)単独投与の継続あるいはリンパ節生検検体のホルモン受容体を検索され,ホルモン受容体陽性であれば抗HER2療法+ホルモン療法も選択肢のひとつとなります。

(2)トラスツズマブ+パクリタキセルに代わる化学療法は?

一般にはトラスツズマブ+パクリタキセル投与中に病勢が増悪した場合の次の治療としては,トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の使用が最も推奨されます(「乳癌診療ガイドライン2018年版」①治療編,CQ23)。

T-DM1は抗HER2療法+化学療法に比べ全体的に有害事象が少なく,QOLがよいという特徴があります。脱毛がほとんど生じない点も利点です。ただし,T-DM1に特徴的な有害事象である肝機能障害や血小板減少には注意が必要です。T-DM1後の三次治療以降も基本的には抗HER2療法を継続します。また,リンパ節生検検体でホルモン受容体陽性であれば,化学療法の休薬が望ましい場合(化学療法による副作用が強く継続困難などの場合)は抗HER2療法+ホルモン療法も選択肢のひとつとなります。

【回答者】

山本 豊 熊本大学大学院生命科学研究部 乳腺・内分泌外科学講座准教授

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