【トラスツズマブ・エムタンシンの使用が最も推奨される】
再発乳癌における治療変更の基準は,がんに伴う症状の悪化や画像上明らかに再発巣の増大や増悪があった場合です。今回,化学療法によりいったん低下していた腫瘍マーカー(CEA)が再度上昇してきていますが,CTなどで明らかな増悪がなければ現在の治療を継続します。ご記載のように,一度低下した腫瘍マーカーが再上昇してきていますので,現在の治療の効果が以前よりなくなってきている可能性は十分あります。
しかし,治療法変更については腫瘍マーカーの再上昇のみでは判断しません。11月以降CTなどの画像検査をしていなければ,再度検査をして腫瘍の状態を評価されることをお勧めします。その上で治療法を変更するかどうかを判断されるとよいと思います。
ご記載のデータ上,気になる点があります。11月5日以降,貧血が進行しています。1月以降も貧血が進行しているようであれば,化学療法(パクリタキセル)の休薬および貧血に対する対応が必要と考えます。貧血があっても一般に抗HER2療法(トラスツズマブ)単独投与の継続あるいはリンパ節生検検体のホルモン受容体を検索され,ホルモン受容体陽性であれば抗HER2療法+ホルモン療法も選択肢のひとつとなります。
一般にはトラスツズマブ+パクリタキセル投与中に病勢が増悪した場合の次の治療としては,トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の使用が最も推奨されます(「乳癌診療ガイドライン2018年版」①治療編,CQ23)。
T-DM1は抗HER2療法+化学療法に比べ全体的に有害事象が少なく,QOLがよいという特徴があります。脱毛がほとんど生じない点も利点です。ただし,T-DM1に特徴的な有害事象である肝機能障害や血小板減少には注意が必要です。T-DM1後の三次治療以降も基本的には抗HER2療法を継続します。また,リンパ節生検検体でホルモン受容体陽性であれば,化学療法の休薬が望ましい場合(化学療法による副作用が強く継続困難などの場合)は抗HER2療法+ホルモン療法も選択肢のひとつとなります。
【回答者】
山本 豊 熊本大学大学院生命科学研究部 乳腺・内分泌外科学講座准教授