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“尿の泡立ち”は病気か?[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.17

岡田浩一 (埼玉医科大学腎臓内科教授 )

登録日: 2020-01-02

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ときどき“尿の泡立ち”を訴えて、私の外来を受診される初診患者さんがいらっしゃいます。たいていがテレビ番組で、出演した医師が「尿の泡立ちには要注意。気づいたらすぐに専門医を受診すること」というのをご覧になって、不安になったというケースです。幸い、ほとんどの方に検尿所見に異常はなく、「心配には及びませんよ」と言って差し上げると、皆さん安心されてお帰りになります。

一定の世代には、まだまだテレビの影響力は絶大です。先生方はよくご存じでしょうが、健康な尿でも結構泡立ちます。たとえば、夏場で汗をかいて、尿が濃くなっていれば、泡立ちが目立つようになります。また、尿の出し方でも泡立ち方が変わります。ちょうど同じビールでも注ぎ方で泡立ち方が変わりますが、あれと同じです。高度な蛋白尿や糖尿などの異常な泡立ちは重要な所見ですが、このような無害な尿の泡立ちの方がほとんどです。実際、長年にわたって腎臓内科外来をやってきましたが、幸い、尿の泡立ちだけを主訴に受診された初診の患者さんから、重篤な腎疾患を見つけた経験はありません。

情報過剰な現代にあっては、注意していないとすぐに情報に振り回されてしまいがちです。常にクールな態度を保ちたいものですが、健康や病気のことになると無関心ではいられないのがヒトの常です。医学的にはまったく無効なサプリメントが、CMや口コミの効果で売れ続けているのもその一例かもしれません。有効な治療薬がない老化症状などの場合には、高齢者の心の拠り所になっていることもあって、あながち無益というわけではありませんが、業者の食い物にされている感は否めません。

われわれは、“尿の泡立ち”だけで病院を受診する必要はありませんよ、と言うべきでしょうか。CMに出てくる“個人の感想”に惑わされてはいけませんよ、と伝えるべきでしょうか。心の声はそう囁いてくるのですが、実際に声に出すことは当分できそうにありません。先生方はいかがでしょうか?

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