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輸血はしたくない[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.18

藤井康彦 (山口大学医学部附属病院輸血部/血液内科准教授)

登録日: 2020-01-02

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医療技術の進歩により手術による出血量が減少した。私たちの病院では、ほとんどの予定手術の出血量は1000mL以下となり、輸血が必要となるHb 7~8g/dLのレベルまで患者のHbが低下しない。手術前に貧血がなければ成人ではほとんどの予定手術は無輸血で行うことが可能となった。

それでは、手術前に貧血がある場合はどうするのか?大部分の貧血は鉄欠乏性貧血なので、待機可能な手術は2カ月後に延期し、女性では、Hb 10.5g/dLの場合に経口鉄剤で貧血の治療を行ってHb 12.5g/dLまで改善後に手術を行えばよいことになる。手術の大幅な延期が難しい場合は静注鉄剤を選択することになるが、国内ではエリスロポエチンが手術前貧血の改善に保険適用がない点が残念である。妊婦についても、出産前の貧血の治療により出産時の輸血の必要性を低下させることができる。妊婦の貧血は鉄欠乏性貧血に加えて、葉酸欠乏や稀にビタミンB12の低下を合併しており、改善が容易でないこともある。腎不全による透析患者や心不全患者も、貧血の治療を早期に行うことにより輸血の必要性が低下する。

Hbがどの程度まで低下したら輸血を行うかという点と、どのレベルまでHbを改善するかといった点は輸血の使用量に影響する。上部消化管出血例ではHb 7.0g/dLで輸血を行った群とHb 9.0g/dLで輸血を行った群を比較したら、後者の死亡率が高かった。過剰な赤血球輸血は上部消化管出血の止血に不利かもしれない。また、輸血後にHb 9.0g/dL以上にする必要はないと思われる。成人では400mL献血由来の赤血球を1バッグ輸血するとHb濃度が約1.5g/dL程度は上昇するので、1バッグ輸血すればよいことになる。以上のことは単純であるが、まじめに取り組めば国内の輸血使用量の1~2割を削減することが可能と思われる。先行してこのような取り組み(Patient blood management)を行ったヨーロッパ諸国では、既に輸血使用量の削減に成功している。1~2割程度の削減ではあるが、血液製剤の供給の面からみると大きな意味があり、献血者不足の解消につながり、真に輸血が必要な場合に遅滞なく供給を行えることになる。

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