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遺伝子パネル検査が承認されたが[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.19

田原 信 (国立がん研究センター東病院頭頸部内科科長)

登録日: 2020-01-02

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2019年6月1日、遺伝子パネル検査が保険適用になった。現在、この検査は、全国11施設のがんゲノム医療中核拠点病院、または全国156施設のがんゲノム医療連携病院で受けることができる。この検査によってそのがんに特有の遺伝子の変化がみつかった場合、その変化に対応して効果の期待できる治療が行える可能性がある。患者さんは、そのような遺伝子の異常がみつかることを期待して検査を希望する。がん種によって遺伝子異常のみつかる頻度は異なるが、私が専門とする甲状腺癌では治療に結びつく遺伝子異常が比較的多い。実際、遺伝子パネル検査にてBRAFV600E遺伝子変異が数名認められた。効果の期待できる治療薬に結びつく遺伝子異常がみつかったことを説明すると、患者・家族はこれで命が救われたと大喜びする。しかし、実際には効果の期待できる治療薬にたどり着くハードルが待っている。効果の期待できる治療薬がみつかっても、未承認あるいは適用外である場合は、その治療が保険適用にならない。治療を受けるには治験あるいは自由診療となる。自由診療となると高額であることから、患者・家族は無理だと言う。

患者申出療養制度下での医師主導治験が、国立がん研究センター中央病院を中心に始まっている。企業から無償提供される。医薬品ごとに、50症例を上限に、患者申出療養としての研究は終了する予定とのこと。幸い、BRAF阻害薬+MEK阻害薬は、無償提供されるリストに入っており、患者はさらに期待する。しかし、医師主導治験であるために、適格基準というハードルが待っている。適格基準を満たさないと治験に参加できず、治療は受けられない。最後のハードルを越えられない患者の気持ちを思うと忍びない。

「患者申出療養」制度とは、未承認薬などをいちはやく使いたい、対象外になっているけれど治験を受けたい、そんな患者さんたちの思いに応えるためにつくられた制度である。患者さんたちの思いに応えるために、これらのハードルを少しでも減らせないものだろうか。患者申出療養としての研究が終了後、治療薬の提供はどうなるのだろう。

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