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専門用語と小さなこだわり[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.27

山本一彦 (理化学研究所・生命医科学研究センター副センター長)

登録日: 2020-01-02

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どの分野でもプレゼンは必要であろう。そして、多くの領域でそれをグローバルに発信し議論し、時には強力に主張しなければならない時もある。この点で残念ながら、国際的にみてわが国の劣勢が否めない。思考過程における日本語の重要性は理解できるが、問題はそれとは別の、英語の絶対的なプレゼン力である。しかし、英語力全体については、今日の話題ではない。

医学における日常のプレゼンでの小さな問題である。30歳代前半の頃、遺伝子名をプレゼンしたときに、B/B’を“ダッシュ”と表現したら、他大学の研究者から、それは“プライム”ですよ、と指摘された。それから気をつけていると、たとえば、遺伝子の向きについては5’はファイブ・プライムであるが、日本では多くの場合ゴ・ダッシュと表現される。日本人の間でのプレゼンではまったく問題のない小さなことであるが、国際学会でわが国の高名な分子生物学研究者がファイブ・ダッシュと言いながら講演されるのを聞いていると、どんなもんだろうなぁ、とガッカリしてしまう。もちろん、その講演は、内容のほうが重要なので、大きな拍手で終えた。しかし、若い研究者がそういう表現をしたらどうだろう。評価が上がるとは思えない。当然、プレゼンのときは、プレゼンの内容に集中してしまうので、細かい表現に関しては、普段の言い方が出てしまうものである。

臨床の現場でも同じようなことがある。最近まで臨床の教室を担当していたので、たとえば、若い研修医が“ハーベー”とプレゼンするたびに、“ヘモグロビン”だね、と言い直してきた。しかし、残念ながら多勢に無勢、ついに定年になるまでほとんど大きな影響はなかった。臨床のプレゼンも学会だけでなく、チャートラウンド、少人数でのプレゼン、緊急時の症例提示など、いろいろある。もちろん、「内容が重要。慣用表現ですからね」、というのも正論である。しかし、臨床の現場で何の疑問もなく、“ハーベー”、“テーベー”、“ペーハー”とプレゼンすることによる不利益は、わが国の医学にとって必ずしも少なくないかもしれない。

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