超高齢社会となったわが国では総人口が減少する中、循環器疾患患者数が増加の一途をたどっている。全年齢層における死因のトップはがんであるが、高齢者における死亡者数ではがんと循環器疾患は変わらず、今後も増え続ける後期高齢者では循環器疾患ががんを上回っている。
わが国の平均寿命は世界第2位を誇るが、平均寿命と健康寿命との間には男性で9年、女性で12年の乖離があり、この乖離の原因のトップは脳卒中を含む循環器疾患である。わが国の医療費は年々増加し42兆円を超えているが、循環器疾患に対して最も多く、全体の約20%、がんの1.5倍が使われている。このように、がん大国であるわが国においても、超高齢化により循環器疾患の重要性が増しているが、数ある循環器疾患の中で特に問題なのが心不全である。
あらゆる循環器疾患の終末像と言われている心不全は、患者数、死亡者数が急増していることから、「心不全パンデミック」と言われている。がんは研究の進歩により発症機序に基づいた治療が可能となり治る時代に入ったのに対し、心臓の機能低下を原因とする心不全の発症機序は不明であり、未だ対症療法にとどまっている。そればかりでなく、心不全をはじめ多くの循環器疾患に関しては正確な患者数も不明であり、治療や予後に関する全国的なデータもない。一方で、基礎研究力は著しく低下し、創薬、機器開発は以前より低迷している。
そこで日本循環器学会は、目標と戦略を明確にしようと考え、2016年に日本脳卒中学会をはじめ多くの循環器関連学会と共同で「循環器病克服5カ年計画」を策定した。「5カ年計画」では、健康寿命の延伸を大目標とし、重要3疾患として脳卒中、心不全、血管病、を挙げ、5戦略として人材育成、医療体制の充実、予防・国民への啓発、登録事業の促進、基礎・臨床研究の強化、とした。一昨年、長年の悲願であった「脳卒中・循環器病対策基本法」が成立した。今後は、国や都道府県からの支援・協力を得て、循環器診療が大きく変わっていくものと期待している。