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男性の育児休暇再考[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.50

森 治郎 (東京都渋谷区)

登録日: 2020-01-04

最終更新日: 2019-12-23

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わが国の男性の育児参加が社会的課題として取り扱われるようになって久しい。政府は男性の育児休暇取得率を2020年に13%に引き上げることを目標にしてきたが、残念ながらその半分にも達していない。多くの調査が「業務の繁忙さ」がその最大の理由である、としている。政府の目標を実現するためには「休暇取得希望者を増やすための動機づけ」、「家庭生活と仕事の両立を可能にする働き方の改革」の2点が必要と考えられる。

男性の育児参加が社会全体に与える長期的な効果についてはしばしば強調されているものの、個人レベルのメリットについては十分に認識されているとは言えない。近年の研究で男性も幼い子どもとのスキンシップを通じて、女性と同じように脳内に神経生理・内分泌学的変化が起こりうることが知られるようになった。その結果、心理面や行動面にドラスティックな変化が現れて養育行動がさらに促されることや、仕事上の成功にも深く関連するとされるemotional quotientが向上することなども観察されている。これらの事実は、企業や社会全体が家庭と仕事の二者択一を近視眼的に求めてしまいがちな現状を見直すためのインパクトをもたらすかもしれない。

しかし一方で、男性の育児休暇取得率の低調は、わが国の抱える国家的課題の一側面に過ぎない。問題の核心は業務の繁忙さ等によって国民全体の可処分時間が減り続け、言わば慢性的な時間欠乏症が蔓延していることである。この新しい現代病のメカニズムを明らかにし、時間という私たちにとって最も貴重な資産の運用方法を創造・標準化することができれば、一億総活躍社会の実現も可能になるに違いない。

令和の時代が画期的なターニングポイントとなるように、産業保健・母子保健に携わる者として私も尽力したい。

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