私は幸運にも2014~2018年度まで文部科学省新学術領域「多元計算解剖学(Multidisciplinary Computational Anatomy: MCA)の創成」に領域代表として関わることができた。
31の国際拠点と70の国内研究機関の数理科学、画像工学、情報学、医用工学など多くの領域に跨って、異分野の先生方と一緒に新しい学問領域を創成し、若手研究者の育成にも微力ながら尽力することができた。学理構築に必要な要素技術や応用システムなど、数多くの学術成果が得られ、818編の英語論文が国際誌に掲載された。学理、概念、要素技術、臨床応用例などを多くの図を用いてわかりやすく解説した教科書(誠文堂新光社刊、2018年)も発刊することができた。
今、プロジェクトを終了して思うことは、異分野融合研究や国際共同研究の重要性である。数理科学などの基礎基盤の強化と新しい時代に対応できるグローバル人材の育成は喫緊の課題である。生命体を構成する身体の一部を様々なモダリティの撮像方法で観察するとき、ある1点1点は多種多様なパラメータや物理量で表現できる。たとえば、X線吸収率(CT)やプロトン密度(MRI)、音響インピーダンス(超音波画像)など異なった撮像方法、解像度の異なるモダリティ(μCTや顕微鏡画像)から様々な医用画像が得られる。
我々は、この医用画像と多元情報を統合した多元計算解剖モデルを確立することができた。形態と機能が時間軸、空間軸、機能軸、病理軸の4つの軸上で変化する様子や、機序を多元計算解剖モデルとして数理統計学的に記述し、未来予測画像を描出することが可能となった。
AIを用いた大腸内視鏡診断支援装置開発例は、ミクロ構造とマクロ構造を統合した多元計算解剖モデルに基づいて、内視鏡施行時にリアルタイムに95%以上の確率で診断支援が可能なシステムで、世界にきわめて大きなインパクトを与えることができた。未来空間予測可能な多元計算解剖モデルは、ライフサイエンスの基礎基盤であり、私は多元計算解剖学に基づいた医療(MCA-based Medicine)を提唱するとともに、今後ますますの発展を願うものである。