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若者の市販薬乱用について[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.57

松本俊彦 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)

登録日: 2020-01-04

最終更新日: 2019-12-23

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今、薬物依存症専門外来を訪れる10歳代の患者に最も多く乱用されている薬物は、危険ドラッグでも大麻でもなく、市販薬です。

彼らは快楽や享楽のために市販薬を乱用しているのではありません。うつ気分や不安感を紛らわせ、「消えたい」「死にたい」という気持ちを一時的に意識から遠ざけるために、コデインやメチルエフェドリン、カフェインを含む市販鎮咳薬ブロンⓇ錠を過量に摂取し、それで足らないときには、同じ成分を含有するパブロンゴールドを乱用しています。

けれども、その効果にはすぐに耐性が生じ、量を増やさなければ同じ効果が得られなくなってしまいます。そして中には、いくらこうした薬剤を飲んでもつらい気持ちが切り替わらなくなると、ブロモバレリル尿素などの鎮静成分を含有するウットⓇを過量摂取し、自殺を試みる者もいます。

彼らは、人間不信や、「自分は人に助けを求めるに値しない」という思い込みから、つらいときに人に相談することができず、薬だけで困難を乗り切ろうとしています。実際、診察室の中では、「変わりありません」「大丈夫です」と、手のかからない「よい子」を演じ、治療に対してさえ過剰適応しています。つまり、「薬にしか依存できない人たち」「安心して人に依存できない人たち」です。

今日、市販薬は急速に身近なものとなりました。街を歩けば、チェーン店のドラッグストアは競って軒を並べ、規制緩和によりインターネットでも簡単に市販薬を入手することができます。国も医療費削減のためにセルフメディケーション税制などで市販薬を促進しています。

医師は、患者が他の診療科から処方されている薬剤には注意を払いますが、患者が常用する市販薬にはチェックを怠りがちです。そもそも、常用する市販薬を知りえたとしても、その製品の内容成分がわからない、という医師は意外に多いのではないでしょうか? 

今後、医師は市販薬の成分に関心を持ち、情報収集に努めるべきです。また、学校教育の現場でも、従来の違法薬物に偏った「ダメ。ゼッタイ。」教育を見直してほしいものです。

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