地震、雷、火事、おやじとは、昔から怖いものの代表とされてきた。ものの本によると、「おやじ」は親父ではなく、「大風(おおやじ)」すなわち、台風とする説があるらしい。私は、平成31年4月に国立循環器病研究センター病院病院長に就任したが、いきなりこれらに遭遇した。
まず地震。6月18日午前7時58分にセンターから9.8km離れた茨木市を震源とするマグニチュード6.1の直下型地震が発生し、震度6弱を観測した。センターの屋上の西側高架水槽50tのパイプが外れて、10階から8階が水浸しになった。屋上からの津波である。同時に停電し、自家発電が作動したものの、復電時のケーブルショートで、一時はUPS緑電源も停止する羽目となった。幸い月曜日の朝で、ほとんどの職員が出勤しており、何とか対応して、軽症の患者が数人出ただけで済んだ。一時は、復電時の漏電による火災発生も危惧され、10階の脳卒中後の患者を担架で4階に下ろす羽目になった。
次にきたのが台風21号。9月4日に強風で流されたタンカーが関西空港の連絡橋の橋げたを破壊し、自動車や鉄道が通れなくなり、1カ月ほど閉鎖されたことをご存知の方もおられると思う。この時は雷が鳴り、センターの窓ガラスが割れて、雨漏りがした。自宅も16時間停電し、センターで寝泊まりした。
そして、令和元年6月30日、北千里からJR岸部駅前への病院移転が始まる。通常の救急自動車では補助循環がついた患者を乗せることができず、ドクターカーで7kmの道のりを5往復した。
94人の患者を大雨の中無事に搬送できたことに安心したところ、7月初めからの2週間に3回の火災警報、「火事が発生しました避難してください」の自動放送。消防署へは自動連絡がいって、消防車がやってきた。カフェのパン焼の煙を感知したり、オートクレーブの熱気を感知したりするなど、予想もしていなかった。
「神は乗り越えられる試練しか与えない」という言葉は、以前放映されたTVドラマ「JIN~仁」で主人公が口にする言葉だが、今後私にいかなる試練が降りかかるか戦々恐々としている。