「なぜ、お医者さんなのに起業したのですか?」
よくこの質問をされます。
私は2001年に医学部を卒業し、最初の6年間は心臓血管外科医でした。心臓血管外科は術後管理をICUで行いますので、私は「集中治療をマスターできた」と思っていました。しかし、数年後に救命救急センターの勤務となり、術後管理以外の集中治療をみて、「集中治療をマスターした」というのは大きな勘違いだと気づきました。術後管理という、集中治療の一部を経験しただけであり、トレーニングを積んだ集中治療医との知識や経験の差を実感しました。
しかし、その集中治療医は日本ではまだまだ少なく、ほとんどのICUに集中治療医を配置できていないのが現状です。そこで、その問題を解決できる可能性がある「遠隔ICU」を日本に導入したいと思うようになりました。「遠隔ICUをするにはクリニックをつくったらいいのかな?」と考えましたが、医師法で遠隔医療が医療行為ではないので、クリニックはつくれませんでした。そこで、仕方なく株式会社をつくることにし、2016年に株式会社T-ICUを設立しました。このときは医療機器メーカーなどと話をするにあたり、「個人」ではまともに相手にされないので「法人」をつくった、という程度でした。
会社設立後「遠隔ICU」をどのようにして導入・普及させていこうか?と考えていたところ、高校の同級生が医療系出版会社に勤務していることを思い出しました。約20年ぶりでしたが気にせず連絡をして、率直に「〇〇くんのところで広告を出して!」とお願いしました。すると「広告とかよりも、中西くんのやっていることは『ベンチャー企業』だから『ベンチャー企業』らしく活動するといいと思うよ!」と言われました。このとき初めて、自分が「ベンチャー企業」というものを設立したのだ、と自覚しました。
ということで、私が起業した理由は「仕方なく起業した」で、それがベンチャー企業だということは「友だちから言われて自覚した」となります。
仕方なくの起業でしたが、会社設立後3年が経過し、まだ生き延びております。