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医療における文化:日本の場合は?[炉辺閑話]

No.4993 (2020年01月04日発行) P.11

夜久 均 ( 京都府立医科大学附属病院病院長/心臓血管外科学教授)

登録日: 2020-01-01

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欧州心臓血管胸部外科学会のために毎年のように欧州を訪れる。欧州の歴史のある国にやって来るといつも文化について考えさせられる。たとえば、ウィーンでは言わずもがな音楽が文化として人々の生活に根づいている。オペラ座、楽友協会では毎晩のようにオペラ、コンサートが開かれ夜な夜な市民が集う。王宮礼拝堂では日曜ミサでウィーン少年合唱団が創立以来歌っており、それが600年以上の年月を経て未だに受け継がれている。また、歩行者天国になっている国立オペラ座からシュテファン寺院へ通じる通りの街頭では、ある日は若い男性が本格的な声楽を披露して人々の喝采を呼んでいた。また、別の日は大学生とおぼしき男女が、結構レベルの高いバイオリンを奏でていた。

考えてみれば、私が海外臨床留学を志したのは、30年前の渡欧が契機であった。心臓外科医をめざしてトレーニングをしていた時期、ロンドンとパリの施設をそれぞれ1週間ずつ訪れたのであるが、そこで日々行われている手術をみて衝撃を受けた。日本とヨーロッパの違いを感じた。これは手術時間や成績といったことではない。思ったのは心臓外科が文化として人々の生活に溶け込んでいる、ということである。もちろん、一般人にとって心臓外科は遠い存在であろうが、少なくとも病院の医師、看護師、パラメディカルにとっては毎日三度の食事をするが如く、淡々と、気負いなく、楽しみながら手術が行われていた。残念ながら、当時の日本では、どんな施設であっても心臓手術はお祭り騒ぎであった。今の心臓手術はどうであろうか?

現在、循環器疾患の治療方針の決定は、ハートチームで行うべきであるということが全世界的に謳われている。内科、外科が寄り集まって、治療方針を自らのデータを基に、透明性をもって決めていくことが要求される。内科医も外科医も、おそらく苦手とするところである。内科・外科だけでなく、看護師、リハビリ理学療法士も含めた、多職種で構成されたハートチームで治療方針を決定していく。ハートチームアプローチを如何にすれば日本の循環器医療の文化にできるか。今、本当に真剣に取り組む必要がある。その前提になるのは、多職種それぞれの職種で標準医療が確実に行うことができることが絶対条件である。

それぞれの分野の垣根はまだまだ高い。理想的には循環器内科・外科といった枠組みではなく、循環器病センターという大きな枠組みの中に、内科・外科の枠組みを超えた予防、診断・治療、リハビリ、緩和までのいろいろな部門が存在するのがよいのだろう。これが文化として普通に行われるようになれば、本当の意味での医療になるのでは、と思われる。我々の施設もそれに向けて一歩ずつ前に進んで行ければ、と思う。それは医師や医療従事者のためではなく、あくまでも患者さんのために。

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