1 なぜ,運動器検診の必要性が高まっているのか
①近年の成長期の児童生徒における運動能力の低下
②学校における児童生徒の外傷や骨折は1970年頃に比し,3倍近く増加
③「しゃがみ込みができない」「片脚立ちができない」など,いわゆる「こどもロコモ」と言われる運動器機能の低下がみられる児童生徒の増加
④運動のし過ぎによる「オーバーユース症候群」の問題
・「成長期の児童生徒の運動器に問題があるのでは」との指摘があり,運動器の異常を早期発見するため,学校健診において運動器検診が検討の上開始された。
2 運動器検診実施までの準備
・運動器検診の実施方法は,2015年度に日本学校保健会が発刊した「児童生徒等の健康診断マニュアル 平成27年度改訂」に詳しく記載されているので参照してもらいたい。運動器検診までの準備には,保護者や養護教諭の協力が必要である。
①学校健診の前に各家庭に保健調査票を配布し,保護者に記入してもらう。保護者に子どもの運動器に興味を持ってもらう良い機会となる。
②養護教諭は記入された保健調査票を回収し,日常の健康観察の情報や体育やクラブ活動の情報を整理する。学校健診の際には,養護教諭は保健調査票と整理された情報を校医に提供する。校医は提供された保健調査等の情報を参考に運動器検診を行う。
3 学校医による運動器検診の実施方法
・学校健診における運動器検診は限られた時間で行わなくてはならない。短時間の検診で異常を診断するのは困難である。要受診(整形外科受診を勧める)となる児童生徒を探すことがポイントとなる。
①保健調査票にチェックがある場合
②歩行障害の訴えがある場合,あるいは認めた場合
③動作時痛がある場合
④可動域に左右差がある場合
⑤圧痛がある場合
⑥迷った場合
4 運動器検診の結果および効果
・2016年度から3年間にわたって日本臨床整形外科学会(JCOA)が行った運動器検診後受診アンケート調査の結果では,受診勧告理由は,「脊柱側弯症の疑い」が69.9%と最も多く,次に「しゃがみ込みができない」14.3%,「腰の後屈での腰の痛み」6.2%,「腰の前屈での腰の痛み」4.8%,「片脚立ちができない」1.9%,「肘が伸びない,痛みがある」0.8%,「肘が曲がらない,痛みがある」0.6%,「両腕が両耳につかない・バンザイができない」0.5%,「その他の異常・疑い」11.1%であった。
5 運動器検診の今後の課題
①保護者への啓発活動不足で,保健調査票の記入が不十分な例がある。
②校医の負担増への対処が必要である。校医は主に内科・小児科医であるため運動器に不慣れであり時間的・精神的な負担も大きい。校医を増員し,整形外科医が関与できるような環境整備が必要である。
③受診勧告をしても受診率が低い。
④受診勧告された児童生徒が受診した場合,勧告部位だけでなく,全身を診察する必要がある。
⑤受診した児童生徒の40%は「異常なし」である。「異常なし」でも運動器に関する児童生徒への啓発が重要である。