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【識者の眼】「白衣を脱いで地域に出ることが最初のヒント」馬見塚統子

No.4995 (2020年01月18日発行) P.61

馬見塚統子 (東大和市高齢者ほっと支援センターなんがい管理者・社会福祉士)

登録日: 2020-01-18

最終更新日: 2020-01-14

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2018年に厚生労働省はACP(アドバンス・ケア・プランニング)に関連して「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を変更しました。このガイドラインの内容は医療にかかわらず福祉や権利擁護の立場からみても大変優れたものとなっています。診療やケアに従事する専門職であれば、常に何度も読み返して自分の業務を遂行する上での指針にすべきものと思います。

しかし、日々このガイドラインに沿ったACPの実践を行おうとした場合は、実際には大変な労力が必要です。本人、家族、家族に代わる人や医療・介護のいろいろな登場人物を集めて、状況が変わるたびに何度も繰り返し繰り返し話し合いを行いなさい─と書いてあります。

これまでの診療の現場を医師の立場から捉えると、私(医師)は「忙しい!」=効率優先、「結論だけ言ってよ!」=限定的、「(患者さんに)良いことをしてあげたい!」=価値の押しつけである傾向は否めず、このガイドラインとはまるで正反対の状況にあるのです。医師には医療における専門性を担保とした責任と大きな権限があります。それは医師ばかりでなくコメディカル、患者や家族にも共通の認識です。権限があるということは、その権限を見誤ると本人や本人主体のはずの話し合いの場をコントロールする力を持つということです。患者さんに自分で決めてもらうことは、これまでの関係性によっては患者さん自身にとっても容易ではありません。この意思決定支援で大事なことは、患者さん自身が最期を迎える頃まで自分が人生の操縦桿を握っていたという実感を持てるように医療やケアの現場の従事者が支援していくことです。

いつもの病院の診療室では、患者さんは白衣を着た主治医を前に本音は言えず、ものわかりの良い患者を演じてしまう方が大多数です。医師も時には忙しい診療室から出て、今地域で行われている地域ケア会議や多職種研修、サービス担当者会議、認知症カフェ、サロンや集いの場など、日常のまちなかの場に白衣を脱いで参加されることがACPを実践していく最初のヒントになります。

馬見塚統子(東大和市高齢者ほっと支援センターなんがい管理者・社会福祉士)[ACP][意思決定支援]

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