睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者数は全国で約200万人、潜在患者数は人口の約3%と推計され、もはやcommon diseaseといえる。SASは高血圧や心血管疾患、糖代謝異常などの原因、増悪因子となるため、非専門医でもCPAP療法を導入するケースが増えている。シリーズ第15回は、データ管理システムを活用したCPAP療法で、治療の継続率を高め、高血圧合併SAS患者の血圧コントロールに取り組むクリニックの事例を紹介する。
小田急線新百合ヶ丘駅から徒歩2分のビルにある新百合ヶ丘ステーションクリニックは、大学病院などからの非常勤を含めた専門医を20人以上揃え、病院レベルの総合的な外来医療を地域に提供している。同院にて総合内科を担当し、生活習慣病患者への簡易ポリソムノグラフィ(PSG)によるSASのスクリーニング検査とCPAP療法を積極的に実施しているのが、副院長の根本憲一さんだ。
根本さんは総合内科、糖尿病、内分泌代謝科の専門医であるが、日常診療の中で特に高血圧症の治療でCPAP療法の有用性を強く感じているという。中でも降圧薬治療開始後、日中や就寝前の高血圧が改善しても起床時の血圧が依然として高い“早朝高血圧”は“治療抵抗性”であり、24時間を通した血圧コントロールが難しい。根本さんはこうした患者には、簡易PSG検査でSASの合併の有無を確認することが大切と指摘する。「当院では血圧日記を用意して、毎日記録していただいています。薬物治療後も就寝前の血圧に比べ早朝血圧が10mmHg以上高い患者さんに簡易PSG検査を実施し、高い確率でSASが認められています」
根本さんは高血圧症患者以外にも、肥満や小顎症、軟口蓋低位、扁桃腺肥大の所見がある患者にはSASが隠れている可能性を疑い、自覚症状があれば検査を行っている。同院での導入から約2年間が経過し、現在は約100人にCPAP療法を提供している。
SASの治療によって日中の眠気、中途覚醒、頭痛といった症状が改善し、QOLの向上や降圧効果への好影響などがCPAP療法のメリットとして広く認識されるようになった一方、課題とされているのが治療の継続率だ。CPAPは装置の操作やマスクの装着など患者が能動的に作業することが必要なため、一定の負担が生じる。そこで同院では、帝人ファーマのCPAPデータ管理システム「ネムリンク」を活用し、患者に治療の意義を理解・実感してもらうことで中断を防ぐようにフォローしている。
「中断例は、当院ではあまり多くありません。まず問診で丁寧に症状を聴取し、治療開始前にCPAPによるメリットを理解してもらいます。治療開始後はネムリンクのデータレポートを一緒に見ながら無呼吸の改善を確認します。レポートではAHI(無呼吸低呼吸指数)、使用時間、リークがグラフで確認できるため、血圧の変化と見比べることで医師─患者間の信頼関係も深まり、患者さんのモチベーションの維持につながっていると感じています」(根本さん)
根本さんは治療の継続率を高めるには、マスクとの相性も重要と指摘する。「患者さんに合うマスクを選定し、フィッティングにも時間をかけています。顔面骨格や口呼吸の有無を聴取し、医師やメディカルスタッフが調整することで医療側が患者さんを支えている姿勢を伝えていくことが大切です」
ネムリンクは、帝人ファーマがCPAP装置と併せて提供しているデータ管理システム。従来のCPAPは、患者がCPAP装置のSDカードなどを持参、医療機関でデータをダウンロードする必要があった。しかしネムリンクではCPAP装置から携帯電話網を使用して自動収集したデータがサーバに蓄積。医療機関はサーバにアクセスすれば、SAS診療の情報を一元的に閲覧・管理することが可能な仕組みになっている(図)。
データ管理では、リアルタイムデータ更新により最新の機器設定や稼働状況、治療データを確認できる。またCPAPを保険診療で行うには外来での指導が定期的に必要、という診療報酬の算定要件を前提とした診療サポート機能も各種搭載。当日の外来患者一覧、指導記録などの外来管理機能や設定閾値を超えた項目のハイライト表示機能、数値データをグラフ表示した患者向けレポート作成機能などを備えており、外来診療の効率化につながる。2018年度診療報酬改定で、CPAP治療中の患者に対し、通信を利用して機器使用状況など療養上必要な指導を遠隔モニタリングで行う評価として「遠隔モニタリング加算」が新設されたが、施設基準を満たしていればネムリンクで取得したデータをもとにした指導で算定することも可能だ。
セキュリティについては、国内各種セキュリティガイドラインに準拠。専用ソフトを利用した偽サーバ対策、多要素認証によるなりすまし対策などが施され、情報漏洩のリスクが少ない。
現在CPAP療法を受けている患者は約50万人。SASは生活習慣病との関連性も強く、専門の医療機関に出向かなくとも地域のかかりつけ医でCPAP療法を受けられる環境の整備が期待されている。
「非専門医の先生はCPAP療法にとっつきにくいイメージを持っているかもしれません。私も専門外でしたが、この2年間でトラブルはほとんどありませんでした。ネムリンクのシステムなどを活用しながらかかりつけ医の先生が日常診療の1つとしてCPAP療法を取り入れていけば、より地域医療に貢献できるようになると思います」(根本さん)