私は福岡県の内陸にある小病院で総合診療専門医の育成にあたっている指導医である。指導の日々のひとこまを切り取り、このコーナーで紹介していこうと思う。
当院の総合診療専門研修プログラムには現在10名の専攻医(専門研修過程中の医師)が在籍している。彼らは4月に異動するため外来患者の引継ぎが多い。患者にとってみれば慣れたころに担当が変わってしまうので、指導医としては申し訳ない気持ちもあるのだが、せめて必要な治療方針や心理社会的背景が適切に引き継がれるよう、専攻医が新しく担当する患者に関しては指導医が一緒に予習をするように取り決めている。
そこで彼らからよく尋ねられるのが、「担当が変わった初回の診察はどのように振る舞えばよいか」というものだ。私はたいてい、まずは丁寧な挨拶を行い、しっかり前医より医療情報の引継ぎを受けていることを伝え、そのうえで本日の相談事がないか尋ねること、最後に予定されていた検査や処方が漏れなくオーダーされることを指導していた。ただ、根拠はあったかということで、考えを整理してみようと思う。
『Naked Consultation』という、英国の家庭医による面談技法をまとめた教本を紐解くと、医師によって最初のセリフをどう言うかは決まっていてもよい。ただし、患者は待合室で何を相談しようかずっと考えており、それが“Gambit(初手)の一言”として表れるから、その表出を医師の決まり文句でかき消してしまわないように、非言語的な共感は示しながら沈黙で診療を始めることも勧めている。
担当医の変更は、患者にとって自分の病気や診療スタイルをわかってくれているのか不安にさせる出来事であろう。したがって、医師からの挨拶や状況説明は手短にするか後回しにして、患者の相談事や期待を話しやすい仕草で汲み取れるようにしたい。これができると、患者側にとっても、新しい医師なのにうまく自分の波長に合わせてくれた、と安心してくれるのではと思う。
吉田 伸(飯塚病院総合診療科)[総合診療指導医奮闘記①]