前々回ちらっと書いた、若かりしころ飼っていたシェパードのバック。あまりに懐かしいので、もう一回お付き合いをば。
番犬としては素晴らしかった。家族には吠えないけれど、他の人には激しく吠える。1.5メートル四方くらいの檻に入れてたのだけれど、そこから噛みつかんばかりに吠えかかるので、皆が恐れていた。夜はそれを庭で放し飼いなので、本当に安心だった。
なかなか賢くもあった。驚いたのは結婚した時。それまで遊びに来た時には吠えていたのに、結婚して一緒に住むようになった日から、妻にまったく吠えなくなった。いまだに、どうしてか不思議でたまらない。
しかし、体がでかくてよく吠える割には、やたらと気が弱かった。あまり他の犬と出会う機会がなかったせいか、犬にはからきしダメ。散歩で小型犬とすれ違っても逃げ出すレベルで、トホホのかっこ悪さ。
それに、なぜか雷が嫌いだった。庭に放してある時に雷が鳴ったら大変だ。土間から家に上がり込んで、泥のついた足で走り回る。上がったところで何も変わらないと思うのだが、なにしろいつもそんなだった。
40年以上も昔のことである。当時は、近所にあった市場で、鶏や牛をさばいていた。骨が強くなるというので、もらってきた鶏の頭を煮たものを常食にさせていた。
時々だけれど、牛の大腿骨も炙っておやつにしていた。恐ろしく歯が強くて、そんな太い骨もバキバキかみ砕いていた。誰も取らないのに、習性なのだろう。一度に食べられなかった残りは土に埋めて掘り起こすのが常だった。
犬の健康にはよくないらしいが、好物だったので、甘い物もときどき与えていた。アイスクリームをやったとき、よほど美味しかったのか、骨と同じように土の中に埋めていた。次の日、掘り起こそうとしたけど当然見つからず。実に悲しそうな顔をしながら、あたりを掘りまくるのがおかしかった。
ある日、妻がケーキを焼いた。あまりの不味さにとても食べることができなかった。甘い物が好きやから、バックなら食べるやろうと目の前に置くと、クンクンと匂いだけ嗅いで、味見もせずに跨いでいった。
不味いものを猫またぎというが、以来、我が家では、食べられないほど不味いものを「バックまたぎ」と呼ぶようになった。つまらん「伝説」の由来、お付き合いに深謝。
なかののつぶやき
「犬に感情があるかどうかというのを科学的かつ厳密に調べるのは、かなり難しいそうです。でも、犬を飼っていた時の経験からは、怒り、喜び、恐れ、それから、情けない、くらいはあるんとちゃうかなぁ、という気がします。まぁ、犬の表情から、なんとなくそんな感じかと思っていただけなので、あてにはなりませんけれど」