脾腫は様々な疾患により二次性にみられるものである。原疾患としては,腸チフス・マラリア・結核などの細菌やウイルス感染に伴う炎症によるもの,肝硬変を中心とした門脈圧亢進症に伴うもの,ムコ多糖症,Gaucher病,Niemann-Pick病C型などの代謝疾患,溶血性貧血,骨髄増殖性疾患,リンパ増殖性疾患などの血液疾患など,様々である。
本稿では肝疾患を中心に記載する。
肝胆膵疾患では,急性の脾腫はウイルス感染がほとんどである。一方,慢性の脾腫は門脈圧亢進症によるうっ血が主体である。脾腫でしばしば認められる血液疾患の除外が必要である。
急性の脾腫はEpstein-BarrウイルスやA型肝炎ウイルスなどによるウイルス感染によるものがほとんどであるが,炎症の消退とともに自然軽快することが多く,薬物治療は不要なことが多い。また,腸チフス・マラリア・結核などの細菌感染も有名であるが,感染症治療により脾腫も改善する。
慢性の脾腫は門脈圧亢進症によるものがほとんどである。門脈圧亢進症の原因として,肝硬変・特発性門脈圧亢進症・肝外門脈閉塞症・Budd-Chiari症候群等が知られている。ほかにもCaroli病などの先天性肝線維症や先天性胆道閉鎖症などでも認められることがある。
脾腫により血球減少症をきたすことを脾機能亢進症と言う。3系統すべての血球が破壊され,白血球減少,貧血,血小板減少が引き起こされる。一般に,多くは無症状であるが,腫大した脾臓が胃を圧迫することで腹部膨満感や左上腹部痛をきたすことがある。
基礎疾患により二次性に発生した脾腫,脾機能亢進症は基礎疾患の治療を行うことで改善することが多い。肝外門脈閉塞症では門脈ステント,Budd-Chiari症候群では狭窄部に対するバルーンカテーテルによる拡張術やステント留置などIVRを用いた治療が行われることがある。しかし,治療困難な基礎疾患が大半である。脾機能亢進による血球減少に対して治療介入が必要なことが時にあるが,主に部分的脾動脈塞栓術(PSE)や脾摘出術などが行われる。PSEは塞栓する範囲を正確に決定する必要がある。梗塞範囲が少ないと血小板増加作用は少なく,梗塞範囲が多すぎると脾膿瘍などの合併症が増加するため,巨脾などの症例では分割PSEが施行されることがある。また,血小板値が3万/μL未満のときはPSEでの効果は少ないとされ,脾摘出術が選択されることがある。
さらに近年,ラジオ波焼灼術や食道・胃静脈瘤治療などの観血的処置のため,一時的に血小板を上昇させるためにムルプレタ®(ルストロンボパグ)が使用可能となった。この薬剤は血球前駆細胞を巨核球から血小板へと分化誘導し,血小板増生を促すトロンボポエチンの作動薬であり,高率に血小板を増加させる。血小板増加に伴う血栓症など重篤な合併症は少なく,使用しやすい薬剤である。
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