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『通じる話』[エッセイ]

No.4713 (2014年08月23日発行) P.70

由富章子 (由富内科眼科医院)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-03-27

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  • 風邪はひくものか、それともうつされるものなのか。

    ウイルスが原因とするなら、「感染する、うつされた」と表現してもよいと思うのに、なぜ「風邪をひく」(have a cold)と表現するのかしらん?

    些細なことに拘るのは、なんのことはない、私自身が風邪をひいてしまったからなのです。

    飛行機で隣り合わせた人がフライトの間中ゴホゴホと咳き込んでいたので「ひょっとして」と危惧していたら、案の定、翌日にはしっかりとのどが腫れていたのでした。

    それでも、キャンセルできない用事が目白押し。なんとか2日間は頑張ったものの、3日目は仕事などどうでもよくなり、「気力が尽きるとはこのことか」と妙に感心しながらもひたすら寝るしかありません。看護師さんからは「先生、注射を打たなくてもよいですか」と心配してもらえるけれど、風邪に特効薬はないのだし、脱水症状も起こしていないので、ひたすら安静、体力温存を心掛け、早く治るよう念じるばかりなのでした。

    そうやって改めて病気になってみると、自分の動作が遅くなるのには驚きます。回転数が急激に落ちた車のごとく、アクセルを踏みたくても踏めないし、スピードも出ないし、頭と体がばあらばら。のろのろと鈍重な走りしかできないポンコツになってしまったような気分になります。当然、雑用も溜まるばかりで、

    「風邪十日 世の速力を感じをり」という油布五線の句が身に染みる日々です。

    しょぼくれた顔はマスクで隠し、最小限の動きで体調の変化を悟られぬよう気を付けていたけれど、鼻声はいかんともなりません。それでも気丈な振りで対応すること7日。どうにか回復間際までこぎつけたのでした。

    のどの痛みも消え、体のキレも戻ってきて、やれ一安心と思うまもなく、新たな問題に直面しています。それは鼻水。

    フニャフニャと鼻の奥にただならぬものが潜んでいる気がします。すっきりさせたくても「ちょっと失礼」と断って、誰もいない部屋に駆け込まなければなりません。ゴミ箱にティッシュの山ができるのもみっともないし、つい今しがた、5分前にティッシュを使ったというのに、どうしてたびたび鼻が詰まるのか、「いい加減にしなさい」と自分に腹を立ててしまいます。

    通じているはずのものが詰まる、だから困る。わたしは今、鼻水に腹を立てているけれども、詰まるからこそ病気なのだといまさらながら思い当たりました。

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