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【識者の眼】「HPVワクチン接種後の慢性疼痛にどう対応すべきか(3):実際の症例」奥山伸彦

No.5010 (2020年05月02日発行) P.63

奥山伸彦 (JR東京総合病院顧問)

登録日: 2020-04-30

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自験例から4症例の概略を紹介する。年齢は14〜17歳女性で、いずれも基礎疾患はない。

症例1:HPVワクチン接種6日後より右足関節痛が出現。2回目接種後就寝時に右腰部と左手掌の強い痛みが出現し、救急受診するも検査上異常なし。以後も改善なく当院受診。痛みはほぼ全身の移動性、短時間の刺すような自発痛。血液、画像検査上異常なし。機能性疼痛として、生活、通学をサポートし、可能な運動を促し対症的に観察。最小限の学校生活は維持可能で、数年かけて改善。最終的には、本人が「痛みとの付き合い方がわかった」と。大学入学後、終診。

症例2:HPVワクチン2回接種1カ月後から頭痛、起床困難、食事中入眠、会話の記憶喪失、話し方に抑揚がなくなるなどの症状が出現。3回目の接種翌日に激しい頭痛と背部痛、その後記憶障害、両手の麻痺症状も出現し来院。慢性疼痛、転換性障害疑いとし、長時間可能なピアノ演奏を運動療法とし観察。薬物療法も有効で、通常の生活が維持できるようになり終診。

症例3:HPVワクチン接種直後より接種部位の痛みと腫れが出現、2回目接種後も同様で、その後右視力障害、頭痛、全身の痛みで歩行困難となる。近医で心因性視力障害、身体表現性障害と診断。3回目の接種後に症状悪化し、複数の医療機関を経て当院受診。慢性疲労もあって生活が混乱していたが、体調不良の合間をみて活動を勧め、自分からも食事調整するなど良い状態を探すようになって徐々に改善。最終的に3年後、就職を機に終診。

症例4:HPVワクチン3回目接種前に左足関節捻挫し、痛みが半年遷延。2年後左足関節捻挫の後、めまい、眼振、手の麻痺、聴力障害などが出現。さらに全身性痙攣が重積し、一時気管内挿管、ICU管理となる。痙攣は反復したが、脳波、血液、髄液、MRIにも異常なく、脳炎、転換性障害疑いとされる。以後も症状反復し、ワクチン副反応疑いで紹介受診。正常な活動と重い神経症状が解離、交錯していたが、睡眠リズムの調整と本人の希望を支持することで、徐々に改善。最終的に自分の意思で活動し、受験も準備するようになり、家族の希望する医療機関に引き継ぐ。

他の症例も含め、全体像としては、身体の疼痛と運動障害を中核とした多様な症状と整理され、経過は、発症、悪化、生活障害の残存する慢性期という3つの相がみられた。

奥山伸彦(JR東京総合病院顧問)[小児科][HPVワクチン]

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