肺炎球菌感染症は,小児から成人まで幅広い年齢層で重要な感染症であり,早期診断・早期治療はもとより,ワクチンによる感染予防も求められる。特に重篤な病態としては,髄膜炎(小児,成人),高齢者の肺炎,脾臓摘出者(もしくは無脾症)にみられる脾臓摘出後重症感染症(overwhelming postsplenectomy infection:OPSI)が挙げられる。このような病態ではしばしば菌血症を合併し,侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:IPD)と定義され,感染症法5類感染症として届出が義務づけられている。定期接種ワクチンとして小児に対してプレベナー13Ⓡ(PCV13:結合型ワクチン),成人ではニューモバックスⓇNP(PPSV23)が実施されている。わが国での成人へのPCV13は,高齢者(65歳以上)への適応はあるが,免疫不全者への適応がなく任意接種であり,接種状況は欧米と比べるとまだ不十分である。
病態に応じた診察所見をとり,感染臓器を想定し,想定感染臓器からの培養検体(髄液,喀痰など)を採取することが原則である。敗血症が疑われる病態の場合には,必ず血液培養2セットの採取が必須である。グラム染色で特徴的なグラム陽性双球菌を認めた場合に,本菌の感染症を疑う根拠になりうるが,肉眼所見なので参考所見にとどめる。また,肺炎球菌の尿中抗原検査も時に有用ではあるが,グラム染色同様に参考所見にとどめるべきである。しかし,髄液中の肺炎球菌抗原検査は,抗菌薬選択決定においては時に有用である。
ペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae:PRSP)では,薬剤感受性の解釈について注意が必要である。髄膜炎と非髄膜炎(主に肺炎)では,薬剤の髄液への移行が血液よりも悪く,髄液検体における薬剤のブレイクポイントは低めに設定されている。わが国でも米国臨床検査標準委員会(Clinical and Laboratory Standards Institute:CLSI)2012年版のブレイクポイントが汎用されている1)。
注射用ペニシリンGカリウムⓇ(ベンジルペニシリンカリウム)の静脈内投与は,髄膜炎の場合は最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)≦0.06µg/mLで感性,0.12µg/mL≦MICで耐性,非髄膜炎の場合はMIC≦2µg/mLで感性,8µg/mL≦MICで耐性としている。経口ペニシリンは,非髄膜炎の場合はMIC≦0.06µg/mLで感性,2µg/mL≦MICで耐性としている。セフトリアキソンでは,髄膜炎の場合はMIC≦0.5µg/mLで感性,2µg/mL≦MICで耐性,非髄膜炎の場合はMIC≦1µg/mLで感性,4µg/mL≦MICで耐性としている。
わが国ではMICが4µg/mL以上のペニシリン低感性肺炎球菌(PISP)やPRSPの検出は非常に稀であり,軽症~中等症の肺炎球菌性肺炎に経験的にペニシリンGを使用することは問題ないと考えてよい。しかし,髄膜炎の場合は上述のごとくブレイクポイントの設定が低いため,経験的治療でペニシリンGを選択することは避けるべきである。同じく,セフトリアキソンもブレイクポイントは低めに設定されているため,経験的治療では単剤での治療は避けるべきであり,バンコマイシンとの併用が推奨される。カルバペネムの耐性もPRSPの場合には考慮に入れる必要があり,起炎菌不明の細菌性髄膜炎で肺炎球菌性髄膜炎も鑑別に挙がる場合には,カルバペネム単剤治療は望ましくなく,バンコマイシン併用が推奨される。
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