20年以上前、母校の医局にいた頃、誰かに心電図を見せられ、「いかなる頻拍か」と問われたが、心室頻拍か心房粗動かよくわからなかった。
後日、その頻拍を経験された50歳代のS氏が紹介状を持って受診してきた。
心房細動に抗不整脈薬が投与されているときに現れた頻拍であり、薬剤による房室伝導比1:1の心房粗動の可能性が高いと考えた。不整脈とは別用で、ある病院の待合室にいたときのことで、緊急処置として直流通電が施され、正常な調律に回復したのは幸運だった。
心房細動に有効な薬剤も、心房粗動にはおよそ非力である。多くの抗不整脈薬はむしろ心房粗動を生じやすくする。今では循環器診療にあたる医師の広く知るところになった。
かつては「心房細動/心房粗動」をひとまとめにして薬剤の効果を検証する臨床報告が多く、薬剤が両方の不整脈に同等に有効であるかのような印象を与えていたかもしれない。心房細動と心房粗動の両方を経験する患者は少なくない。長時間心電図を記録すると、ある時間は心房細動を、ほかの時間は心房粗動を記録することもしばしばである。
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