発展するテクノロジーは医療機器を小型化・大衆化し、一般人による自己採血検査やインターネット情報による自己診断の促進、目的が不明瞭なビッグデータの乱用、住民の生活や疾病情報の共有化が進む。
一方で、常にステークホルダーの影響を受ける機器開発や情報、そしてその運用方法に対して、住民・患者の不安や医療者の不信も増してきた。
血圧計を例に挙げる。1980年代の家庭用自動血圧計の発売以来、血圧は患者自身により自宅で手軽に測定され、家庭血圧や白衣高血圧症という概念が登場した。厳格な血圧管理という医学的寄与の裏では、“血圧計の数値恐怖症”という新たな“病”も出現した。そして、腕時計型デバイスによるバイタルサイン(例:血圧・心拍数)測定は、この流れを加速させている。
世界を見渡せば、薬局や家庭で実施される血液検査・単極誘導の脳波検査・心電図検査・エコー検査・遺伝子検査などが既に大衆化されつつある。人工知能による対応で薬を購入できる「1分診療所(無人電話ボックス)」も2019年に中国で始まった。最近のApple Watchを巡る議論も同様であるが、簡便さと精度はトレードオフの関係であることを忘れてはならない。
私も、ポケットエコーmirucoという安価な超音波診断装置の開発に携わり、医療者にとっての「1人1台の聴診器の如く活用されるエコー」をテーマに活動しているが、「勝手に使われることのリスク」は上述の通りである。そのため、看護師など多職種が「適切に」活用するための教育システムの構築に注力している。
テクノロジーの活用は医療機関外における医療行為の質向上と住民のセルフケアの意識向上に寄与するが、他方で人々の健康への不安を刺激・創造することにより、新たな健康志向需要の発掘というヘルスケアビジネスの格好の対象にもなっている。精度管理がされていない膨大な情報に住民や地域が振り回されないためにも、近未来の医療者は、医療の基本である「アートの心」と、デバイスという「質の良い軽装備」を纏い、地域に寄り添い続けることを期待したい。