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若い医師を取り巻く環境[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.14

清水 渉 (日本医科大学大学院医学研究科循環器内科学分野大学院教授)

登録日: 2021-01-01

最終更新日: 2020-12-21

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医師を取り巻く環境、とりわけ大学病院に勤める若い医師を取り巻く環境は昔に比べて大きく様変わりした。

私は心臓や血管を扱う循環器内科医であるが、私が医師になった35年前に比べて、今の若い医師はいろいろな意味で余裕がなくなっている。在院日数短縮により延べ入院患者数が増加し、これによるカルテ記載や退院サマリーなどの業務が増えている。また、医療安全上、患者さんに対して病状の説明や承諾書の取得などにとられる時間は昔に比べて格段に増えており、一人一人の患者さんの診断や治療についてじっくり考える時間をとることが難しくなってきた。

また、現在は診断・治療に関する臨床ガイドラインが整備され、覚えるべき医学的知識や手技も昔に比べると何倍にも増えている。さらに、臨床研究をするにも倫理委員会での厳しい審査を通過するために、時間と労力を必要とするようになった。

私が若い頃は、入院患者数も今ほどは多くなく、入院期間も特に制限はなかったので、一人一人の患者さんを診断・治療する時間も十分にとれた。また当時は、ガイドラインも十分に整備されておらず、臨床の現場には診断や治療について解っていないことや確立されていないことが沢山あった。見方を変えれば、一人一人の患者さんを診療する度に新しい発見があり、臨床上の疑問があればそれを解決するためにいろいろな検査も比較的自由にでき、臨床研究も組みやすかった。指導医のちょっとした言葉から、新しい発想や研究テーマが頭に浮かんで、これらを検証することができた良き時代でもあった。

一方で、余裕がなくなっているのは若い医師だけでなく、指導するベテラン医師も同じである。一昔前は、臨床に強い、教育に熱心である、研究に長けているなど、何か1つだけでも秀でている指導者は尊敬される時代であった。ところが今は、臨床・教育・研究のすべてにバランスが取れている必要があるだけでなく、これに病院経営上、病院の収益に貢献するという、新たな手腕も要求される時代である。

超高齢時代を既に迎えているわが国では、介護を要する高齢の患者さん、フレイルや認知症の患者さんなどが増加の一途をたどっており、まさに若い医師にとっては過酷な時代である。しかし、いろいろな意味で余裕がなく厳しい環境ではあるが、特に若い医師には、常に臨床の疑問を解決するという意識で診断・治療にあたり、また、新しい発想で臨床研究をするという姿勢を持ち続けてもらいたいものである。

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