2020年に某所で発生した事故ですが、70歳代の男性が乗用車を運転し川沿いの市道を走行していました。一時停止の標識で急加速し、柵を突き破って約3m下の川岸に落下しました。男性は重傷を負いましたが、「一時停止でアクセルとブレーキを踏み間違えた」と話していました。また、2019年の事故では、70歳代の男性が乗用車を運転していたところ、駐車場で精算機の停止バーを突き破り、その後、20~30m暴走し、道路と歩道を突っ切って、隣の公園の柵に衝突して停止しました。男性は、「精算機で止まろうとしたが、ブレーキとアクセルを踏み間違えた」などと話していました。
このようなペダル踏み間違いによる事故ですが、上記に示したように踏み間違うだけでなく、その後も修正できずにしばらく走行するという特徴もあります。
交通事故総合分析センターの調査によると、ペダル踏み間違いは全事故の原因の約1%程度であり、決して多くはありません。しかし、第1当事者が四輪車である場合、74歳以下では、ペダル踏み間違い事故の割合は約1.5%以下ですが、75歳以上では3%以上になります。したがって、ペダル踏み間違い事故といえば高齢者と結び付けられています。
しかし、正確には脳の機能異常が原因と考えられています。
自動車の運転には様々な脳機能が関与していますが、ペダルの踏み間違いは緊急時、外的に複数の情報を同時処理し判断しなければならない状況、あるいは内的に物事を思案し気を取られている状況で発生しやすいことから、「注意障害」が主な原因と考えられています。注意機能は前頭葉が司っていますが、注意を一点に集中する能力、注意を維持、持続させる能力、複数の刺激に同時に注意を向ける能力、注意の方向を転換する能力などが含まれます。したがって、注意障害によってこの能力が低下すると、踏み間違いが起きやすくなります。
2008年に、予期せぬアクセルペダルの強踏により事故を起こした人を対象とした研究が公表されました。その人の認知機能検査や神経心理学的検査結果を分析して、アクセルペダル強踏事故を予測できる因子を探しました。その結果、高齢であることと、時計描画テストの結果が悪いことが因子として挙げられました。時計描画テストは、認知機能検査などに用いられていますが、主に前頭葉の機能を反映すると言われています。
先の事故例にありましたが、誤ったペダルを踏み続けた状態でしばらく走行していることが分かります。2020年に公表された研究ですが、認知機能検査でほぼ正常と判断された若年者と高齢者を対象にドライビングシミュレーターでペダル操作の時間などが比較されました。一般の操作では大きな差はありませんでしたが、意図せず速度が増加した状況下では、ペダル操作を修正する能力は高齢者で低下していました。
すなわち、高齢になると誤ったペダル操作であったことを認識するのに時間がかかるそうです。これも、アクセルからブレーキへ注意を転換することなどの機能が低下していることによると考えられます。一度でも踏み間違い事故を起こした、あるいは起こしそうになった方では、注意障害を確認する必要があります。