世界中がCOVID-19(新型コロナ)感染の第3波に見舞われて不安な状況になっています。
さて、我々夫婦が米国ノースカロライナ州(NC)で新型コロナ感染に罹ったのはまったくの想定外でした。この貴重な体験を日本の医師(医療関係者)の皆様にも共有してもらいたく、筆を取りました。
私は、米国に移住して7年目を迎えています。この数年は事情があり、テネシー州(ナッシュビル、三女宅)と西ノースカロライナ(ミルズリバー)の自宅を月に2回は往復する生活を送っています。
娘宅訪問中の11月初めから軽い鼻風邪を引いた感じで、普段感じたことのない倦怠感がありましたが、長旅も重なり、疲労が蓄積しているため、と思っていました。その中で11月4日にNCで仕事があるため、11月3日午後から6時間かけ、自家用のトラックで自宅に戻りました。その後も倦怠感は尋常でなく、鼻水、くしゃみもみられ、感冒(cold)であると自己診断。様子をみていましたが、感謝祭(11月26日、毎年11月第4週の木曜日で、米国では家族が集まる大きな休日。この翌日はBlack Friday)が近く、娘達も来る予定でしたので、念のため新型コロナの検査を受けておこうと、空咳をしていた妻と2人で11月9日、検査のできるUrgent Care〔発熱など軽度の患者だけを診る救急外来。明らかな心・脳疾患などはER(救急専門外来)〕を受診、新型コロナ疑いで抗原検査(鼻腔拭い)を受けました。受診時、発熱、倦怠感、咽頭痛、筋肉痛、下痢などはみられませんでした。
約30分後、担当のPA(physician assistant―日本にはない制度。4年制の大学卒業後、さらに4年間、臨床現場で訓練を受けた後、国家試験がある。医師より医療の現場をよく勉強している)から、2人とも新型コロナ陽性との報告を受けて、ビックリ。これが新型コロナ感染なのかと、改めて納得しました。その時、外来受診し検査を受けた7人中、我々2人を含めて4人が陽性であったと聞いて、また驚きました。この時、私はほとんど無症状(鼻水少々、くしゃみは稀)、妻は軽度の空咳であったため、2週間は自宅療養をするように言われて帰宅しました。しかし、その翌日から私は毎日、朝、目を覚ますと、発熱99.9°F(37.7℃)と凄い倦怠感がみられるようになり、動くのも億劫で、寝こんでいました。この間、食欲もなくなりました。幸い解熱剤〔アセトアミノフェン、アスピリン(抗血栓作用もあり、これがお勧め)〕を服用すると解熱し、倦怠感も軽減しました。
このような状態が4~5日続き、11月16日からは発熱もなく、倦怠感も消失しました。この間、右口角に口唇ヘルペスがみられ、持ち合わせのBZZ(ほう酸亜鉛化軟膏、いわゆるボチ)を使用し、約1週間で軽快しました。経過中、頭痛、咽頭痛なし。味覚、嗅覚にも異常はなし。空咳がみられましたが、解熱とともに食欲も徐々に回復しました。一方、空咳のみみられた妻は、初診時に胸部X線で右下肺野に肺炎(?)を疑わせる小さな影があると言われて抗菌薬を処方されました。その5~7日後、私が解熱して起きられるようになった頃に、妻に私同様の発熱、倦怠感がみられるようになり、私と交替で、寝込んでしまいました。
新型コロナの症状、経過は個人差があり、私のように発熱もなく、感冒症状で発症することもあり、外来での問診、診察だけでは診断できず、やはり抗原(quick test:結果は1時間以内)、PCR(Urgent Careでは抗原検査が陰性であるが、症状から、新型コロナが疑われる場合のみ追加、実施)の検査が診断には欠かせないと実感しました。
我々にみられた食欲低下、異常なダルさ(極度の倦怠感)もこの疾患の特色なのでしょう。味覚、嗅覚障害はみられません。息切れはなく、経過中SpO2(血中酸素飽和度)も96%以上でした。妻はまだ空咳、夜間に発熱がみられ、経過観察中ですが、息切れのためか話すのが億劫で娘らの電話に出ることができず、SpO 2 は坐位で94%前後とやや低めでした。妻はその後、入院の可能性も考えERを受診しました。日本であれば胸部CTを撮るところですが、当地では医療保険の制限でできません。
私は発症してから14日は過ぎており、ほぼ無症状でしたので他人が感染しないよう注意し、3W(米国ではwear mask、wait 6 feet away、wash handsで、屋外での飲食、空気の入れ替えなどを実践しているが、密閉がない。一方、日本の三密には手洗いがない)を実施、買い物など外出時はマスク着用、サニタイザー、手洗い、うがい(米国人には、うがいの習慣はない)をしていました。
娘宅訪問中に感染したと思いますが、感染源は不明です。彼らは無症状でPCR検査も陰性です。妻はNCに居たため、私から感染したと思います。
11月19日、私の体調はほぼ正常になり、遅れて寝込んだ妻の看護(買い物、家事一切含む)に集中できるようになっていましたが、空咳がたまにあるので、再燃、再発のないことを祈りながら11月25日、Urgent Careを再受診し、胸部X線、抗原の再検査をしました。抗原検査は陰性になっており、X線にも異常なく、一先ずホッとしたところです。診察、処方をしたのはPAです。MDではありませんが医師と同じく診察、処方、訓練の内容によって手術などもできます。このような制度は他にも多くみられます(nurse practitionerなど)。Urgent Careには医師が常駐していますが、概ねPAで事はすみます。すべての人が原則に戻って、マスクの着用をはじめ、不要不急の外出をしないことが肝心ですが、日本をはじめ世界の多くの人に、それができていないことは残念です。
確実な抗ウイルス薬はありません。また、血漿療法は適応が限られており、保険はきかず、一般的な治療ではありません。
新型コロナ感染で、一番危険(後遺症も残る可能性がある)なのは新型コロナ肺炎(SARS)です。胸部CTを撮れば素人でもわかり多くの情報が得られますが、日本のように、容易に胸部CTは撮りません。しかし、単純X線検査でも、肺炎の初期には下肺野、背側にすりガラス状の陰影が見られることで診断できます(妻の場合も、ER受診時には同様の所見がみられました)。
X線所見に加えて、熱が下がらない、咳(空咳)がみられる、身体がだるい、食欲がないなどの症状がみられる場合は、血液のサイトカインが異常に高くなっていることを示唆します。放置するとサイトカイン中毒(サイトカインストーム─免疫細胞がウイルスと闘うためにサイトカインをつくるが、それが過剰に産生され過剰の炎症反応が起きて、逆に症状を悪化させる)、発熱、低酸素血症がみられます。稀に血管壁を障害し、血小板の粘着、凝集が起こり血栓症(脳梗塞、心筋梗塞)を生じる〔免疫力の低下している人に起こりやすい(?)〕こともあるため、ここで、治療を怠り重症化すると、レスピレーター、ECMOなどが必要な急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の状態になります。
自宅療養中、大切なのは、時期を失することなく、タイミング良く、抗炎症薬(免疫抑制薬)を使用することです。以下に、11月21日にER受診後、妻の受けた治療の内容を記載します。
妻は、ERでプレドニン®を投与(I.V.)され(パルス療法はせず)、熱があったため担当医は迷っていたようですが結局は入院せず、内服薬(デカドロン®)1日6mg(経口)、加えて予防のために抗菌薬併用(これは良し悪しある)を10日分処方され、自宅療養となりました。副腎皮質ホルモンにはいろいろな問題(ウイルスが増える等)が指摘されていますが、症状の悪化、サイトカインストームを防ぐには、確実な抗炎症薬がない現在、これしかないのが現状です。妻の場合は効果覿面。デカドロン®開始日から上述の症状が軽減しはじめました〔熱は出なくなり倦怠感がとれる、SpO2も改善(低酸素状態が改善、息切れがなくなる)〕。
しかし、この改善は見かけ上で、プレドニン®を使用している間に、自己の免疫機能を上げる工夫、努力〔個人差が出てくる。体力、回復力、十分な睡眠、休養、ストレスの回避、諸々の併存疾患の治療、食事習慣(免疫能を上げる食品:玄米、brown rice〈最近は米国のどこの食品売り場にも置いてある〉の摂取)〕をしなければなりません。
抗ウイルス薬を併用する方法もあるのかもしれませんが、その経験はありません。入院するか、ERで交渉すると、効果は“?”ですが、何らかの抗ウイルス薬を処方してくれたかもしれませんが。
妻は解熱後も空咳がとれないでいるのが悩みでしたが、去痰薬を服用、寝室ではネブライザーも使用、排痰を促すため時々伏臥位をとっていました。先のことを考えると(肺線維症の後遺症)、呼吸体操も必要(?)ですが、元来、体力がなくて、それは不十分でした(回復に個人差あり)。
しかし、その後の回復は順調で、プレドニン®が終了した12月2日には息切れもなくなり、子どもたちと電話、FaceTimeもできるようになりました。12月8日、咳も少なくなり、易疲労感はあるものの、ほとんど無症状となり、Urgent Careを再受診しました。抗原検査は陰性、胸部X線上は、まだ異常陰影は両側下肺野にみられましたが、11月21日、ER時の写真からは著しく改善がみられました。これは予想したとおりの所見であり、X線上は瘢痕化した異常所見が残ると思われました。
赤十字関連の施設で血漿のdonationをしました。抗体検査の結果は2週間後にネットで閲覧できるとのことでした。希望的観測ですが、我々夫婦は既に中和抗体ができている状態にあると思いますので、今のところ、すぐにワクチンを接種する予定はありません。
結果論になりますが、自宅療養で経過をみてよかったと思っています。入院では心のケアができず、最悪の場合は家族に会うことなく息をひきとり、家族に遺骨が渡されると聞きます。
現在は新型コロナ感染症の予防、急性期の医療に目が向けられていますが、急性期から回復後も長期にわたり、倦怠感、息切れ、味覚障害、嗅覚障害、不眠、物忘れ、集中力低下などがみられ、日常生活を取り戻すのが難しくなっている患者さんがいます。コロナ後症候群(Post COVID syndrome)と呼ばれていますが、まだその原因は不明です。 今後はコロナ後遺症に苦しんでいる患者さんの治療、ケアも必要になると思います。