西部胸部疾患懇話会(静岡県)は1972(昭和47)年に発足した。そして翌年、東京大学・三上理一郎教授による演題「全身疾患と肺」の始めにRubin.H.Eの名言“The Lung as a mirror of Systemic Disease”の解説と素晴らしい講演を拝聴した。その後も継続されてきたこの会は、静岡県西部の医師会員が胸部疾患を学ぶ生涯教育の場として、貴重な存在である。
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60歳男性、初診で3日前から感冒症状があり咳嗽、血痰、37.5℃の発熱で来院した。胸部X線像では左第2弓の突出と肺血管影の増大(図1)、側面では右室拡大と肺動脈主幹部の腫大を認めた(図2)。心音は駆出性雑音を聴取し、心電図は完全右脚ブロック、血液検査はCRP 3.7mg/dLとわずかな上昇のみであった。問診では過去の検診は胸部X線像の異常の指摘はなく、中学生時の学校健診で心雑音の指摘を受けたが心疾患の精査は受けたことはない。
感冒症状が治ってから心エコー検査を試みた。Mモードの中隔奇異運動、左室短軸の扁平化、三尖弁閉鎖不全症、肺高血圧、左右房シャント血流が確認されて心房中隔欠損症(2次孔欠損症)、肺体血流比(Qp/Qs 2.87)で肺血流が正常の約3倍増加等の結果が得られた。
聖隷浜松病院に紹介し、心房中隔欠損症(欠損孔3cm以上)、三尖弁閉鎖不全症の診断にて手術が行われた。術後の経過は良好でQOLは著しく向上した。胸部X線像の心陰影、肺血管影、CTRは改善して、1年後には心肺機能も改善して、術前は休み休みに登っていた登山が一気に登頂できて、心から感謝している。
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医学の進歩により成人先天性心疾患は増加の一途にある。日常診療と検診の胸部X線像は、肺野の陰影とともに心陰影の形、肺血管影にも注目することで、成人先天性心疾患の早期発見ができ、予後とQOL向上につながる。
現在、西部胸部疾患懇話会は浜松医科大学・須田隆文教授が代表幹事を引き継ぎ、県西部の医師会員と8病院が参加して講演と症例検討が毎月交互に行われてきたが、新型コロナウイルス感染症で一時中止となっている。