救急専門医を取得した頃、沖縄県の民間病院で初期研修医育成も視野に入れ1人科長としてERを立ち上げた。ある日、突然発症の頭痛で同い年の男性患者が搬送された。搬送前からわかっていた。典型的なくも膜下出血。だが、搬送された患者のバイタルサインを測定した時、一瞬、目を疑った。「SpO2 72%」。
頭部CTは見事な白い五芒星が脳幹周囲に広がっている。まごう事なきくも膜下出血である。そして、私はこの低酸素の正体を知っていた。neurogenic pulmonary edema(神経原性肺水腫)という病態だ。心電図の胸部誘導で巨大陰性T波が出るらしい。大当たりだ。この病態がどれほど予後の厳しいものかを理解していたからこそ、少しでも彼の妻と娘たちに「生きているパパ」との時間をつくってあげられたと思いたい。
別の日、突然発症の胸痛で初老の男性が搬送された。おそらくそうだろう。バイタルサインも身体所見も心不全そのものだ。原因検索で心電図をみた時、私は目を疑った。胸部誘導で巨大陰性T波だ……。一瞬混乱しそうになったが、すぐに切り替えた。知っていたのだ。急性心筋梗塞(Wellen’s症候群)を。そう、なるぞ、あれに。致死性不整脈に。
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