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【医師×製薬企業コミュニケーションの「大変革」を読む ①】ウィズコロナ・ポストコロナ時代の医療現場への情報提供─大変革を最大のチャンスに(日本医事新報特別付録「製薬企業オウンドメディア最新ガイド2021」)

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武田俊彦 (ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザー/元 厚生労働省医政局長)

登録日: 2021-03-30

最終更新日: 2021-04-06

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たけだ としひこ:1983年東大法学部卒、厚生省(現厚生労働省)入省。医薬・生活衛生局長、医政局長などを歴任。退官後も厚労省政策参与として活躍。2019年1月より現職。

臨床現場の医師に正確かつタイムリーな情報が届くことは、日進月歩の医学の世界においては極めて重要である。しかし、現在、医師に対する情報提供は大きな変革の入り口にさしかかっている。医師の働き方改革、製薬企業に対する情報提供ガイドラインの導入に加え、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が起きたことは、医師への情報提供をめぐる状況に不可逆的な影響を与えた。一方で、テクノロジーの進化は従来よりも質の高い医薬情報の効率的な提供を可能にしている。現在進行している大変革を、医療に携わる関係者すべてに恩恵をもたらす大きなチャンスと捉えたい。(日本医事新報特別付録「製薬企業オウンドメディア最新ガイド2021」の全文はこちらから無料でダウンロードできます)

今、目の前で起きている環境変化

(1)情報提供活動におけるデジタルチャンネルの本格対応が迫られている

これまで医師に対する医薬情報の提供は、製薬企業の医薬情報担当者(MR:Medical Representative)が足繁く医師の元に通う形で行われてきた。相互の信頼関係構築は情報の流通に役立つ良い面もあったが、過剰な訪問競争などはかねてから問題視され、病院によっては徐々に制限される傾向にあった。

しかし、ここにきて、いくつかの外部要因により医師への情報提供をめぐる状況は大きく変化している。

一つは、医療界にとって極めて大きな政策転換である「医師の働き方改革」である。今国会に関連法案も提出されているが、罰則付きの医師の勤務時間上限の導入は、医療現場に大きな変革を求めている。臨床現場に製薬企業の社員が入り込んで医師の時間を奪うことはもはや許されない環境になっていく。

もう一つは、企業に対する情報提供ガイドライン(医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン)の導入である。これは製薬企業のプロモーションをめぐって起きた問題事例を踏まえて導入されたもので、提供する資料や資材に制限が加わった結果、医師の側から時間を割いて面会する意義が大きくは感じられなくなっている。

新型コロナ感染症の感染拡大が起きたことは、この動きに決定的な、そして不可逆的な影響を与えたといってよい。社会全体の働き方が、リモート重視に変化し、このメリットを実感したことは、我が国の働き方、面会の仕方、情報の入手の仕方に極めて大きな影響を与えている。これは医療に携わる人々にとって、そして関係者すべてにとって利益を得る希有なチャンスでもある、と私は信じている。そして、そこに果たすデジタルという技術の貢献は測り得ないマグニチュードを持っている。

(2)テクノロジーの進化でデジタルによる医師・患者への価値提供の機会も広がっている

テクノロジーの質的な変化も見逃せない。なぜなら、デジタルを使うことで、非デジタルで情報提供していたときよりも、質の高いデータを効率的に提供することが可能になってきたからだ。これにより、従来、ともすると時間と手間をかけて面会の機会を追求する非効率なやり方で行われた医薬情報の提供も、高い付加価値を実装することが可能になってきている。

中でも、AIによるデータ分析・機械学習が因果関係の不明確な複雑系においても相関関係を見いだし、人間の能力を上回る予測とそれを基にした最適化を可能にしていることは注目される。特に非効率なやり方が指摘されていたこの分野こそ、AIを活用したツールの導入は大きな効果が期待できるのである。

医療現場へのデジタル情報提供の全体像

(1)デジタル化のエコシステム

デジタル技術は、これまでの人と人との関係を大きく変革する可能性を秘めている。医療は様々な技術、情報、知識、教育研修などのインプットを医療提供につなげていく、極めて複雑なシステム体系になっている。そこに関わる関係者は膨大であり、個々の医師、組織としての病院が多くの関係者と1対1でつながっている。医薬情報をとってみても、1人の医師それぞれが多人数の企業の担当者と個々につながってきた。

しかし、デジタル化により今後形成されていくエコシステムの中で、医師の求める情報と医師に提供されるべき情報が効率的にマッチングしていくことが予測される。この新たな体系に適応することができるかどうか、関係者はその対応力が試されている。

 

(2)リアルとバーチャルの融合したBionic Modelへの移行

コロナ下において、リモートの会議システムを中心としたバーチャルなつながりへの大転換が起きた。一方で、リアルな面会、対談の重要性もまた見直される動きがある。今後は、リアルとバーチャルの融合により、対面とデジタルを融合したtwo-wayコミュニケーションを活用し、時間当たりの価値を最大化することが重要になる。

医師にとっても製薬企業にとっても生産性が高まる形でコミュニケーションやソリューションの設計を行うとき、このような融合モデルにあっても、リモートを最大限に活用し、望ましいチャンネルの組み合わせを追求することが、情報提供の質と効率を最大化するためのカギとなる。

さらに、個々の担当者による情報提供からデジタルのコミュニケーションに切り換えていくためには、医師のニーズに合った情報を選び出して効率良くニーズとマッチさせていくことが必要になる。すなわち、何でも知っていてどんな話題にもついていく担当者でなく、話題とテーマに応じて最も詳しい担当者がコミュニケーションをとることが可能になる。

また、情報提供する側からみると、どんなニッチな情報でも用意しておくことが重要になる。これはセグメンテーションの細分化、情報のパーソナライゼーションの推進というテーマになる。これがデジタル時代の情報提供であり、AI技術の活用が期待される。

大変革への期待

これまで、ともすると、一方の効率化は他方に負担を強いてきた。しかし、現在進行している変革は、関係者すべてに恩恵をもたらす可能性がある。関係者全体に質と効率化をもたらす変革は、医療が最終的に目的とする患者の利益に結びつき、医療システム全体のファイナンスを行っている保険制度、ひいては国そのものに利益をもたらすことになる。 現在進行している変革が重要なのは、そのためであり、関係者が力を合わせるべき意義もそこにあるというべきだろう。

(日本医事新報特別付録「製薬企業オウンドメディア最新ガイド2021」の全文はこちらから無料でダウンロードできます)

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