ウイルス感染症に合併する脊髄炎で,小児に多い。病原ウイルスは主にピコルナウイルス科であり,1960年代まではポリオウイルス,1990~2000年代はエンテロウイルスA71型が多かったが,2010年代に入ってエンテロウイルスD68型が主流となった。D68型による急性弛緩性脊髄炎は夏~秋に多い。
主に臨床像(急性弛緩性麻痺)と画像所見(MRI上の脊髄病変)により診断する。臨床的には発熱と上気道炎症状(喘鳴,咳嗽,鼻汁)の3~5日後に弛緩性麻痺が急性発症し,数時間~数日で進行する。麻痺には左右差があり,上肢優位,近位優位であることが多く,患者により1~4肢に及ぶ。頸,体幹,呼吸筋,球筋,外眼筋の罹患もありうる。MRIでは病初期から脊髄灰白質に縦に長大なT2延長病変が認められ,浮腫を伴う。第2病週には脊髄神経根(前根)に造影剤による増強効果がみられる。鑑別診断の対象は,各種の脊髄炎,脊髄梗塞,ギラン・バレー症候群などである。
また病原ウイルス同定のため,咽頭拭い液や血液などの検体を採取してウイルス学的検査に供することも重要である。
急性弛緩性脊髄炎の急性期には,呼吸管理を中心に支持療法を基本とする。
エンテロウイルスD68型による急性弛緩性脊髄炎の病理は,ウイルスの直接侵襲による脊髄炎であり,これに対して臨床的に有効性が証明された薬物治療はない。しかし動物実験における効果,および製剤中に含まれる中和抗体に期待して,免疫グロブリンを静注する。回復期以降は,残存した運動麻痺に対するリハビリテーションを行い,一部の症例では機能再建術の適応を検討する。
2015年に日本で多発した急性弛緩性脊髄炎の症例に関する多施設共同研究の成果が公表されているので,治療方針をたてる際の根拠とできる1)。
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