認知症(dementia)とは,成人に起こる記憶および知能の障害により,社会生活の継続に支障をきたす状態のことであり,約70の疾患がある。認知機能の低下とともに身体機能も低下していき,最終的には寝たきりとなり,嚥下障害を起こして死に至る。根治療法はなく,認知機能の低下をできるだけ遅らせるようにすることや,生活のしづらさを改善することが求められる。
認知症では脳細胞の脱落を原因とする,記憶障害,実行機能障害,失行,失認,見当識障害,言語に関する障害など,必ず起こる中核症状がある。さらに,中核症状によるゆがんだ外界認知に,性格,素質,環境,心理的状態などが複雑に作用する,周辺症状がある。周辺症状は必ず起こるわけではない。
認知症の中には治る認知症も5%程度含まれている。まずは,その鑑別をしっかりと行うことが大切である。また,多くの認知症は完治ができず,認知症そのものの治療よりも,認知症以外の生活習慣病などをコントロールして合併症の悪化を防ぎ,認知症による生活障害を改善することが治療の目的である。
認知症は画像検査や血液検査だけでは診断はつかない。それらの検査の主な目的は,あくまでも鑑別診断である。認知症はその人がどのような症状を呈するのかを,家族や介護者から聴取したり,認知症の人の行動を観察したりして診断を付けていく。
認知症の人の治療は,家族を含む多職種でチームをつくって行うことが基本である。認知症に対する治療というよりは,生活障害を軽減するために,デイサービスや訪問看護など介護保険サービスをうまく利用することや,生活習慣病など合併症のコントロールが治療の主眼となる。薬物療法として,4種類の薬剤が保険適用となっているが,アルツハイマー型認知症(Alzheimer-type dementia)の進行を遅らせる効果はあるが,治すことはできない。また,認知症の終末期では移動が困難となり,訪問診療の適応となる。認知症の人の生活歴や家族歴をよく知っている,かかりつけ医が最期まで診ることが理想である。
認知症の中核症状で緊急対応が必要になることは少ない。周辺症状の悪化により,同居している家族との生活が破綻しそうな場合などは,速やかな対応が求められる。
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