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高齢血液病患者の医療・ケア[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.30

市橋亮一 (医療法人かがやき理事長)

登録日: 2021-05-06

最終更新日: 2021-04-28

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  • 高齢で血液疾患を有する患者では,通院することが社会的に困難であり,在宅医療が行われている。また,ホスピスなどでは病勢をコントロールする化学療法・分子標的薬が中断される可能性があり,自宅で療養しながら治療を継続することを希望する患者もいる。当院での2009年から2020年6月末までの11年間で死亡した累積患者1296名(在宅死1012名,入院死284名)のうち血液腫瘍関連疾患は63名(4.8%)を占める。内訳としては骨髄異形成症候群・白血病が最多(36名,血液疾患全体の57%)で,悪性リンパ腫(20名,32%),多発性骨髄腫(7名,11%)がその後に続く。

    ▶治療の考え方/診療上の3つのポイント・コツ

    他の固形がんと在宅血液疾患は,以下の3点において特徴的に異なる。
    ①免疫不全状態であり,発熱の鑑別が他疾患よりも多岐にわたる。
    ②白血病,リンパ腫で最終末期が加速的な増悪を示す。
    ③輸血依存になっているために,輸血に対しての対応が必要になる。

    【①免疫不全状態であり,発熱の鑑別がより多岐にわたる】

    好中球減少,ステロイドや化学療法などによる免疫不全状態のため,発熱時の鑑別診断に真菌感染症,カリニ肺炎,結核なども考慮に入れた対応が必要になる。腫瘍熱としてステロイドを使用することがあるが,その前に感染症の否定をしておかないと免疫抑制に伴う感染のさらなる増悪をきたすことがある。血液疾患などの免疫不全患者では,発熱時には真菌感染診断のためにβ-d-グルカンの採血が行われるが,その感度は55~95%,特異度は77~96%と対象により変動はあるが,スクリーニング検査,治療反応の測定として有用である。ただしムコールなどの接合菌類は細胞壁にβ-d-グルカンを保有しない点,クリプトコックス症では厚い莢膜多糖により値が上昇しないこともあり陰性であっても否定できるわけではない。その他の留意点としてはβ-d-グルカンは医療材料(セルロース系透析膜や大量ガーゼ使用)や血液製剤(アルブミン製剤,グロブリン製剤),高ガンマグロブリン血症(多発性骨髄腫など)など様々な原因で偽陽性を生じることには注意が必要である1)
    一方で,在宅において看取りに近い状態で,免疫不全患者の食事制限について退院カンファレンスで検討する必要があるときがある。すなわち,残り時間が非常に短い患者において食欲低下があり,また本人から生物(寿司,刺し身など)を食べたいという希望があることがある。免疫不全患者においてどこまでリスクを取るかということに関して再度病院血液内科医と相談して,個別的評価により制限を解除する場合もある。緩和ケアの見地から食は大変重要な要素でもあるので一度病院主治医と検討することが望ましい。

    【②白血病,リンパ腫で最終末期が加速的な増悪を示す】

    指数関数的な増殖をきたす疾患である白血病,リンパ腫では一見元気に見える患者でも突然の呼吸苦や,日常生活活動(ADL)の低下をきたした後に予期するよりも早いタイミングで死に至ることがある。終末期の変化を十分にコントロールすることができれば血液疾患であっても自宅での看取りは可能であり,当院では自宅看取りはそれぞれ白血病83.3%(30名/36名),悪性リンパ腫90%(18名/20名),多発性骨髄腫100%(7名/7名)とそれぞれ希望に沿って自宅にいることは十分可能であると感じている。当院自験例での非血液がんの自宅看取りは866名中705名(81%)が自宅看取り,161名(19%)が病院での看取りであった。血液疾患だからといって看取りが難しくなるわけではなく,非血液がんと比較してむしろ自宅での看取りの頻度は高かった。

    【③輸血依存になっているために,輸血に対しての対応が必要になる】

    在宅環境でも輸血は可能であり,日本輸血・細胞治療学会のウェブサイト上で「在宅赤血球輸血ガイド」が示されている。
    外来とは異なり在宅診療という限られた資源の中で安全な輸血を行うために観察を行う必要があるが,それが十分にできない可能性があるため初回の輸血は病院で行うこと,輸血開始後1時間は医療従事者が同席すること,輸血開始から数時間(可能であれば翌日)まで観察を担当する医療者以外の成人が同席することが必須とされている。

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