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小児在宅医療~子どものためのコミュニティホスピスを自宅から支える~[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.37

戸谷 剛 (子ども在宅クリニックあおぞら診療所墨田院長)

登録日: 2021-05-07

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  • 児が予期せぬ疾病や障害を持つことを知ったとき,家族は児の健常な人生のイメージと希望をときに喪失し,深刻な予期悲嘆~特別な悲しみ~を経験する。「この子を育てていけるのだろうか,この子を産んでよかったのだろうか?」厳しい治療や予後の中で児と家族が新しい一歩を踏み出す「おうち」はこれら悲しみの結び目をほどき人生の糸を紡ぎ直す心の喪失からの回復と癒しのゆりかご~ホスピス~と言える。子どもの緩和ケアの特徴は成長と発育という側面にニーズがあることで「健常を失ったことへの特別な悲しみへのケアニーズ」と「これから子どもに期待される発育への支援ニーズ」が交互に求められる。小児在宅医療は,自宅での医療ケアを構築する実利的支援に加え,困難をともに乗り越えながら児と家族とともに成長する伴走者としての息の長い関わりを求められる。

    ▶退院前からの切れ目のない療育的支援

    退院前カンファレンス等での病院訪問を有効活用して児と家族に実際に会い,切れ目のない診療と病診連携を心がける。

    すなわち,児の発達状況と日常生活活動(ADL)および医療処置・事故抜管等の際の家族の応急処置の実地訓練・感染リスクの低い在宅環境での簡便な手技・コストオーバーにならない医療処置に必要な物品供給・医学管理料の算定する医療機関の確認を行う。また,基礎的な暮らしに際して重要な8つの要素「住居・姿勢・移動・日中と睡眠の安楽・栄養摂取・排泄・清潔・入浴・外出」のためのサービスや福祉用具や居住環境。児と家族の予測される週単位のタイムスケジュールと必発する介護負担に対する緩和的な医療福祉資源。経済困難に対する各種医療および福祉サービスの申請と取得。これらを実現するための医療福祉教育行政の訪問資源・施設資源。について確認・調整・導入・連携を行う。在宅時医学総合管理は通院困難・在宅療養困難な病状に対して月1~2回以上の定期訪問診療による医学管理をベースに24時間の往診応召・電話相談・病診連携を行うことを説明する。

    ▶在宅で行う具体的診療

    身体状況と疾病の経過と状態・障害や苦痛症状の把握・医療機器の使用状況の把握に努める。初診の段階で在宅での療養計画を,家族の願いを交えて対話を通して共有する。小児は気道症状・消化器症状・消化不良・栄養障害・睡眠障害・皮膚炎や褥瘡・痙攣症状への治療ニーズが多い。症状の出現に応じて初期対応の薬物療法やケア指導を行う。呼吸障害や嚥下機能障害・痙攣・筋緊張異常・発達障害など多臓器の障害を持つケースが多く1つの臓器症状が他臓器の不調を誘発しやすい。また呼吸苦・腹痛・体性疼痛などがこれらを誘発しうる。

    症状の緩和に努めながら柔軟に早め・厚めに対応する。ワクチンは稀なアナフィラキシーへの初期対応の準備をして注意して行う。成長と発達の評価を定期的に行う。求めに応じて診療情報提供を含め必要な文書作成を行う。
    超重症児スコアのみならず,前田浩利らにより提唱された新医療的ケアスコアは重症度のみならず医療的ケアの介護負担も加味して作成されており有用である。

    ▶医療的デバイスの把握と事故の際の日頃からの備え

    移動装置・坐位保持装置・ベッドなど姿勢や移動の福祉用具と医療的デバイスを把握する。在宅酸素・パルスオキシメータ・吸引器・吸引チューブ・吸入器・気管カニューレ・固定バンド・人工呼吸器・経鼻胃管・尿道カテーテル・中心静脈カテーテル・ストマなどの種類・衛生管理・交換頻度の把握。事故抜去に即座に対応する準備(交換用カニューレやバッグバルブマスクや酸素。嘔吐時の吸引)。両親や看護師によるカニューレ再挿入手技指導。事故抜去の際の連絡や状態悪化時の救命救急のフローチャートの作成と確認を行う。暮らしにマッチするできるだけ「安心・簡便・簡単」な医療的ケアの衛生管理や手技をつくる。

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