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急性腹症[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.46

山本理子 (丸木記念福祉メディカルセンター(HAPPINESS館クリニック/地域包括ケア病棟)

木村琢磨 (丸木記念福祉メディカルセンター(HAPPINESS館クリニック/地域包括ケア病棟)/埼玉医科大学総合診療内科教授)

登録日: 2021-05-08

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  • 一般に急性腹症(acute abdomen)とは,急激に発症した腹痛のうち,迅速に処置を行わなければ生命に関わりうる重篤な状態である。その診療には,まず病態の把握と確定診断が欠かせないが,医療機関においてはマルチスライスCTに依存せざるをえない部分が多い。さらに,高齢患者における急性腹症は,症状が非特異的なため正確な診断が困難である上に,心血管疾患などの併存症が多く,若年患者に比べて死亡率が高いことが医療機関においては明らかになっている。
    在宅医療において狭義の急性腹症を診療する頻度は比較的低いと考えられるものの,高齢者が多くCTが施行できないため,急性腹症の診療には多くの限界がある。本稿では急性腹症を「比較的急激に発症した腹痛の患者」と広義にとらえ,在宅医療においてどう診るかについて論考する。

    ▶状態の把握・アセスメント

    在宅医療では検査へのアクセスが容易ではないため,丁寧な病歴聴取と身体診察,特にバイタルサイン・腹部所見を重視する。

    病歴聴取は,まず基礎疾患,既往歴との関連をふまえ鑑別診断を想起する。これには,普段から既往歴を詳細に把握しておくことが望まれる。たとえば,「腹腔内に悪性腫瘍を有する患者の内臓痛」はもちろん,「腸管ヘルニアからのヘルニア嵌頓」「胆石症からの胆管炎」「心房細動からの上腸間膜動脈塞栓症」などが該当する。また,在宅医療では認知機能障害を有するなど,患者自身で症状を訴えることに限界がある場合が少なくないため,主介護者や他職種が「いつもと違って何となくお腹を痛がっている」などの情報を重視し,重篤な病態の可能性を念頭に置くようにする。

    身体所見は,高齢者の腹痛においては腹膜刺激徴候など所見に乏しい場合がありうることを念頭に置きつつ診察する必要があるのは医療機関と同様である1)。患者が症状を訴えることに限界があったとしても,腹部診察における圧痛の有無などは,表情を十分に観察すれば多くの場合は認識可能であり入念に行う。

    「緊急性があり除外すべき鑑別診断」として腸閉塞,胆囊炎/胆管炎,尿路感染症,急性心筋梗塞などが挙げられる。随伴症状としての嘔気・嘔吐,発熱の有無を確認しつつ,必要に応じて眼球結膜における黄疸の有無,胸部・腰背部などの診察を行う。なお胃瘻を有する患者では,(特に交換後の)腹腔内迷入,(バンパー型における)バンパー埋没症候群も念頭に置く。

    「緊急性に乏しいと考えられるが,しばしば経験する鑑別診断」として便秘,尿閉,帯状疱疹などがある。訪問看護などと連携して排便や排尿の状況,皮膚の変化などの情報収集を行いつつ判断し,これらは在宅で処置や投薬により治療可能であることから,見逃さないようにしたい。

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