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口腔ケア[私の治療]

No.5063 (2021年05月08日発行) P.56

三木次郎 (三木歯科医院医院長)

登録日: 2021-05-09

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  • ヒトの体を1本の管と例えるならば,口腔はその入り口であるが,歯という硬組織を持つ。
    体の表面は皮膚で覆われる。皮膚は口唇で内側へ翻転し,体の中空を覆う粘膜に名を変える。皮膚と粘膜の移行部は滑らかで,連続性を持ち,つなぎ目のない立体構造となっている。さらにこの粘膜が覆う中空は消化管と呼ばれる。消化管は外界と連絡しているため腸内細菌や口腔内細菌などが存在するが,消化管粘膜はこれらの細菌と共存し,その侵入などから身を守っている。

    ここで消化管の入り口としての口腔に目を向けると,最初に気がつくのは,歯という硬組織があることである。歯は,粘膜を突き破って口腔という空間に突き出している。つまりこの部位は数少ない粘膜の不連続点であり,数少ない細菌の体内への侵入の経路となる可能性がある。しかし,この粘膜の不連続点は,歯周組織という特殊な組織でしっかり歯と結びつき,外界からの細菌の侵入を防いでいる。

    歯周炎はこの歯周組織の慢性炎症であり,口腔内の細菌が原因とされている。この場所における免疫反応は生体の防御反応として細菌の侵入を防ぐためのものであるが,歯周組織に対しても破棄的に作用する。さらに様々なサイトカインなどの生体内の活性物質を産生することも知られており,歯周病と糖尿病,心筋梗塞,心内膜炎,腎炎などの全身疾患との関連性や,最近では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関しても,その関連性が示唆されている。そのため日頃のケアによりこの歯周組織を健全に保つことは重要である。

    歯周炎の処置(歯周組織を健全に保つためには)基本は口腔の衛生管理である。これは①う歯や歯周病からの歯の保護,②誤嚥性肺炎予防,③口腔摂取継続,④全身疾患の予防,等にもつながる。

    ▶手技の実際

    【口腔の衛生管理】

    口腔の衛生管理は,専門職による口腔衛生管理と専門職以外の口腔ケアに定義される。口腔の衛生管理は小児から高齢者まで,連続・継続が必要であり,専門職による口腔衛生管理と専門職以外の口腔ケア(もちろん本人のセルフケア)が協働することが必要である。

    小児期の,口腔の衛生管理は歯科医師や歯科衛生士の口腔衛生の指導と管理,その指導に基づいた家庭でのケアで成り立つ。家庭でのケアはセルフコントロールができない乳幼児においては母親(主たる養育者)をはじめとする家族の支援が必要で,それによって連続性・継続性が担保される。

    高齢者についても同じことが言える。特に独居での在宅療養者や施設入居者は,歯科医師や歯科衛生士の管理指導が大きな柱となる。しかし専門職が毎日,在宅の個人に関わることは不可能で,それをつなぐためには,訪問看護師や介護福祉士等,現場で働く人々の支援が必要となる〔これは小児に対する母親(主たる養育者)の役目と同じである〕。そうすることにより,要介護高齢者に対する連続・継続した口腔の衛生管理が担保される。

    【在宅療養,施設での口腔の衛生管理】

    口腔の衛生管理の適応:歯や舌や口蓋の汚れ・歯茎からの腫れ,出血,痛み・口臭や部屋の異臭
    頻回の発熱・繰り返す誤嚥性肺炎・原因不明の痰や咳・義歯使用者・開口不能の人・口腔乾燥症・摂食嚥下障害・食事の遅延・非経口栄養摂取者

    【要介護者の口腔の衛生管理】

    口腔の衛生管理においては,歯や舌や口蓋の汚れや局所の炎症症状が基本的な適応である。それ以下の項目は口腔の汚れが強く推測される症状である。これらの症状があれば,口腔を見ずとも口腔の衛生管理の必要性を考えるべきである。たとえば部屋の匂いは口腔の衛生管理を行うことで,短期間で消失することがよくあるし,痰や咳,熱発も継続した口腔の衛生管理により,初診から1年も経てばかなり減少し,「今年は以前より発熱する回数が少ないね」等の感想を頂くこともよくある。

    ここで挙げた口腔衛生の適応の症状はほとんどの要介護高齢者に当てはまる。つまり,すべての要介護高齢者に対し口腔衛生管理,口腔ケアが必要だということである。

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