日常生活活動(ADL)が低下した高齢者が独居で自宅にいられるかどうかは,病状の安定性(安全の確保)と,介護に依存する。介護をどれだけ得られるかは経済力に依存する。医療的支援とともに,介護保険制度や障害福祉制度を組み合わせて支援を行う。
ADLが自立に近い高齢者で,認知症がなければ,独居でも在宅療養はあまり問題がない。しかし,身体的虚弱,認知能力低下をきたすと在宅療養生活が困難となる。それでも,自宅で継続的に生活したい強い意思を持つ人への支援を記載する。
医療従事者に課せられた最大の役割は,「病状を安定させること」である。頻回の急性増悪や苦痛があると,生命に関わらなくても本人や支援者が不安になり,独居生活が困難になりうる。入院を繰り返すと,「在宅生活は無理だろうか」との不安を本人や周囲の者に抱かせる。つまり,病状が安定しないと独居生活は困難となっていく。
独居高齢者支援において,介護や生活支援に重点を置くあまり,訪問看護などの医療サービスを軽視することは絶対に好ましくない。医師の診療や訪問看護は,比較的頻度高く行い,急性増悪を予見して回避し,対症療法も積極的に行い,病状を安定的に維持することが望ましい。
慎重に動作を行う人はADLが低下しても独居生活が継続可能であるが,不用意な動作をする人では,骨折等を契機に独居生活が不可能になる事例が多い。外傷等の受傷頻度は,認知症の軽重のみならず,性格に依存する。認知症が進んでも,「慎重な性格の人」は慎重に動作を行い,受傷しないことが多い。「けがをしない」療養環境の工夫(後述)とともに,本人に,「けがをしないことが在宅療養継続の秘訣である」ことを,折に触れて,繰り返し説明する。
「介助入浴」での死亡事故はほぼゼロである。入浴死亡事故は,比較的動作の能力が保たれた高齢者が単独入浴時に生じる。したがって,「比較的動作の能力が保たれている高齢者」への留意が重要である。具体的には,「ある程度動作が保たれていても虚弱な高齢者は見守り(介助)入浴させる」に尽きる。見守り(介助)されるのが嫌な人に対しては「他者が屋内に存在するときにのみ」入浴を許可する。
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