病理学総論の講義、遺伝性疾患のところでふと思い立ち、学生たちに自分のゲノム情報を知りたいかどうかを尋ねてみた。
【質問1】1000ドルゲノムの時代、10万円でゲノムを解析しませんか? と勧められました。さて、あなたはどうしますか?
【質問2】質問1のお勧めが来たと同時に、あなたのお父さんがハンチントン病であることが判明しました。さて、あなたはどうしますか?
いずれも、選択肢は以下のとおり。
#1. 申し込む
#2. もう少し安かったら申し込む
#3. 申し込まない
#4. わからない
106名の回答数は以下のとおり。
念のために説明しておくと、ハンチントン病は、認知能の低下や不随意運動、情動障害が症状の、中年期に発症する疾患。常染色体顕性(以前は「優性」といいました)に遺伝するので、親がこの病気とわかった場合、子供は50%の確率で発症する。
ゲノム情報で、ある程度は疾患リスクを推定できるが、現時点ではあまり大きな情報は得られない。ゲノム情報はプライバシーに密接に関係している。などを講義では説明している。また、医の倫理の授業では、同じような問題についてのグループディスカッションもやったそうだ。そのせいだろうか、質問1では#3の回答が多かった。
ちょっと残念だったのは、いずれの質問においても、#2あるいは#4と答えた学生が少なからずいたことだ。学生でお金を十分に持っていないのはわかるが、こういう本質的な問題を金額で判断するのはいかがなものか。また、正解はないけれども考えつくして現状での答えを書くように、と言ってあったのに#4を選ぶとは情けない。
予想外だったのは、40人程度と、かなりの数の学生が質問1と質問2で違う回答だったことだ。う~ん、そうか。重篤な疾患ほど知りたいということか。子供を作る前に知っておくべきという意見も結構ありはしたけれど、おっちゃんにはいまいちわからないのでありました。
なかののつぶやき
「医学が進むにつれ、学ぶべき知識の量は膨大になってきています。それだけでなく、わたしが医学生だった40年ほど前にはなかったゲノム解析や新型出生前診断などが開発され、新たな倫理的な問題もたくさんできてきました。医学部の学生たちにとっては大変なことかと思いますが、避けて通れないのですから、考えてもらわねば仕方ありません」