先生方も暑さに悩まされていることとお察しします。5月ごろにうつ状態になる、梅雨時に腰痛がひどくなるなど、気候の変化とともに精神的あるいは肉体的異常を自覚する人がいます。このように気候と体調の変化については、いくつかのエビデンスが報告されており、ドイツでは1950年代から医学気象予報が実施されているそうです。気候の中でも暑さ対策が大きな問題になります。
労働現場では気温と作業効率について、様々な検討がされてきました。室温が21~25℃の範囲では、作業効率に大きな変化はないと考えられています。また、20℃のときに比べて26.7℃では作業効率が低下する、集中を伴う作業では20℃から27℃へ上昇するにしたがって、作業効率が低下するなどの報告もあります。
記銘力がほぼ同じである人達を2つの集団に分け、それぞれ22℃と29℃の室温下において、ビデオを観させた後に内容の理解度や記憶力を調べるという研究が行われました。その結果、29℃の環境下では22℃の環境に比べて、集中力および覚醒度が低下し、疲労感が増加していました。さらに、数値や語句の組み合わせを問うような難易度がやや高い問いに対して、29℃では正答率が下がっていました。したがって、高温になると集中力や思考能力が低下するようです。
ある研究者は、大学における講義室の環境に注目し、気温が上昇すると、集中力がどのように変化するかを調べました。24~26℃の室温に設定された状態から、徐々に室温を4℃程度上昇させていきました。その結果、室温の上昇とともに暑さを感じるようになり、そして集中力が低下していくことがわかりました。しかし、暑さや疲れの感覚が集中力に及ぼす影響については、人によってばらつきが大きいことも分かりました。
すなわち、室温が高くなっても人によってはなんとか意識して集中しようとする行動がみられます。これをホーソン効果と呼びます。
かつて、米国の会社のホーソン工場で行われた研究で、工場における照度を変化させたときに作業効率がどう変化するかを調べました。明るさを弱めたにもかかわらず、生産高が変化することはなく、個人がなんとか環境に合わせて努力した結果と考察されました。それ以降、作業環境自体ではなく、作業者の意識から行動が変化することをホーソン効果と呼ぶようになりました。
不快な環境下で一定時間作業を続けると、疲労のために覚醒度が低下し、注意力が低下します。気温が高いことで深部体温が上昇すると、脳内の温度も上昇し、情報処理能力が低下します。これらが集中力の低下となって現れます。したがって、本人が頑張るホーソン効果に期待するのではなく、適切な室温を維持することが重要です。
人間は暑さに対して皮膚表面からの放熱や発汗などで対応しています。これらの能力は加齢によって低下しますので、特に高齢者では長時間の連続作業は控えられたほうがよいでしょう。