2016年8月14日,日本高血圧学会は,バルサルタン試験のひとつであるVART試験1)の結果を記した主論文を学会誌から撤回することを決定した。研究責任者の小室一成・元千葉大学教授(現東京大学教授)らは,残存しているデータでは学会誌の編集委員会が求めていた修正は無理だとして,撤回を申し出たという。
このVART論文は,以前から由井氏により,試験終了時の血圧値の不自然な一致が指摘されていた2)3)。それに対する佐藤氏らの反論もあったが4),その反論は由井氏によって一蹴された5)。また,佐藤氏らの反論に示された血圧値や標準偏差の情報から,血圧値の一致は恣意的であったことが統計的に明らかにされている(図1)6)。
問題は血圧値の不自然な一致だけではない。千葉大学は,バルサルタンが有効とされた二次エンドポイントにおいて,脱落症例があまりにも多いことからVART試験に不正がなかったかの調査を行った。そしてその最終報告において「脱落症例は,すべての副次項目変数で,バルサルタン群に有利でアムロジピン群に不利になる傾向となっている。このような傾向が偶然に生じたとは考えがたい」と述べ,不正操作を強く示唆している。事実,LVMI(左室心筋重量係数)については,36カ月時点での症例の分布を見ると,正規分布から大きく離れ,LVMI値の大きいところが大量に欠損していた(図2)7)。このようなことは自然には起こりえず,意図的欠損であることが確率論的に示された。
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