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■NEWS 【米国糖尿病学会(ADA)】肥満例におけるセマグルチド除脂肪体重減少をビマグルマブが抑制:RCT"BELIEVE"

登録日: 2025-07-02

最終更新日: 2025-07-02

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GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)による減量作用は、多くのランダム化比較試験(RCT)で実証されている。しかしそれらの薬剤で懸念されているのが、体組成への悪影響である。すなわち脂肪が減少するにとどまらず、筋肉量も必要以上に減るのではないか―。

620日から米国シカゴで開催された米国糖尿病学会(ADA)第85回学術集会では、この点を詳細に評価するとともに、GLP-1RA筋肉減少を抑制しうる薬剤の存在が明らかになった。アクチビン2型受容体拮抗作用を持つモノクローナル抗体、「ビマグルマブ」である。

RCT"BELIEVE"の結果を紹介したい。報告には、メインの結果を担当したルイジアナ州立大学(米国)のSteven Heymsfield氏ら、4人が登壇した。

【対象】

BELIEVE試験の対象は「BMI≧30」(肥満関連合併症があれば「BMI≧27」)の507例。米国と豪州、ニュージーランドで登録された。平均年齢は47.5歳。平均体重は107.5kgBMI平均は37.3だった。体組成を見ると、総脂肪量が45.8kg、除脂肪体重は58.3kgだった。なお、アジア人は3.0%のみである。

【方法】

これらは以下の4群にランダム化され、48週間観察された。すなわち、「ビマグルマブ単剤」、「GLP-1RA(セマグルチド)単剤」、「ビマグルマブ・セマグルチド併用」、プラセボ―の4群である。

ビマグルマブ群、セマグルチド群とも低用量群と高用量群が設けられていたが、紙幅の関係でセマグルチド群は高用量である2.4mg/週皮下注(57例)、同じくビマグルマブ群も高用量30mgkg14162840週に静注。57例)、同様に両剤併用群も高用量併用(57例)のデータのみを示す。

【結果】

・体重の変化(1次評価項目)

試験開始48週間後の減量幅は、プラセボ群が2.5kg、ビマグルマブ群10.7kg、セマグルチド群15.5kg、ビマグルマブ・セマグルチド「併用」群21.9kgだった。

・脂肪量の変化

脂肪量はDXAで評価した[Scherzer R:Am J Clin Nutr. 2008]。ビマグルマブ群における脂肪量の試験開始からの低下率は25.3%で、セマグルチド群の24.8%と同等だった。またこれら両剤併用群では42.4%という低下率を観察した。一方、プラセボ群における低下率は5.2%で、有意差に至らなかった。

内臓脂肪量の目安である「腹囲径」でも、同様の変化が認められた。ここまでは、ビマグルマブとセマグルチド間に大きな差はない。

・除脂肪体重

一方、ビマグルマブとセマグルチドの差が際立ったのは、「除脂肪体重」である(体重から骨重量と脂肪重量[いずれもDXA評価]を除した値)。

まずセマグルチド群だが、除脂肪体重の低下率は7.9%だった(vs. 試験開始時。プラセボ群に比べ有意に大)。ところが同剤にビマグルマブを併用すると、低下率は2.6%のみに抑制されていた(セマグルチド群と有意差、プラセボ群とは有意差なし)。

さらにビマグルマブ群では逆に、試験開始時から2.3%の有意な除脂肪体重「増加」が認められた。なおビマグルマブには健常高齢者における筋肉量増加が、すでに報告されている[Rooks D, et al:J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2020]。

続いて、「体重減少における除脂肪体重減少の割合」を算出すると、セマグルチド群では28.5%だった。一方ビマグルマブ群では0%、両剤併用群も7.1%のみである(群間の検定は示されず)。

・カロリー摂取量

もう一点目を引いたのが、ビマグルマブのカロリー摂取に対する影響である。ビマグルマブ群では先述の通り、体脂肪量はプラセボに比べ有意に減少していた。にもかかわらずカロリー摂取量は、プラセボ群と差がなかった。

・安全性

いずれの群も重篤な有害事象、予想外の有害事象は認めなかった。

しかしビマグルマブ群では、懸念されるデータもあった。LDLコレステロール(LDL-C)である。というのも、ビマグルマブ群では開始24週後まで、39%近いLDL-Cの急峻な上昇を認めた。その後は緩徐に低下し続けたが、開始48週間後でも開始前に比べ25%近い有意高値となっていた(その後も低下は継続)。

一方、セマグルチドを併用すると、ピーク時のLDL-C値はビマグルマブ群と同等ながら、その後の低下はより急峻だった(セマグルチド単剤ではLDL-C軽度低下)。

この部分を報告したワイル・コーネル医科大学(米国)のLouis Aronne氏は、すでにジェネリックのストロングスタチンが使える以上、この程度のLDL-C上昇は大きな問題ではないとの見解を示した。

過去数年、インクレチン関連薬が話題の中心となってきた減量治療だが、新たなプレーヤー登場となるだろうか。日本人での検討が待たれる。

本試験のsponsorEli Lilly and CompanyCollaboratorVersanis Bio, Inc.である。学会報告では試験に対する資金提供の開示はなかった。

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